科学と文化の両面から現実とはなにかを問う──東京大学大学院理学研究科博士課程宮本道人さんへのインタビュー

アカデミックインタビュー

専門的な知識や研究内容ではなく、広く学びに携わる・携わった「人」に焦点を当て、どのような経緯を経て今に至るかといったことを探る記事カテゴリー、それが「アカデミックインタビュー」!

第3回は、東京大学大学院理学系研究科にてショウジョウバエを用いた神経科学研究を行う傍ら、科学文化批評家としても活躍する宮本道人さんに

  • 神経科学者と批評家の2つの顔を持つ背景
  • これまでとこれからの野望

などについてお聞きしていきます。

Profile

宮本道人

研究の専門キーワード:神経科学、光遺伝学、運動回路
評論の専門キーワード:オープンサイエンス、SF、視覚文化
著書:共著『ビジュアル・コミュニケーション』、分担執筆『フィールド写真術』
野望:科学界のウォルト・ディズニーになる

神経科学の研究―ウジ虫オリンピック開催に向けて

としちる
としちる

こんにちは! 今回は、神経科学分野を専攻し研究なさる一方、評論家としても活躍なさっている宮本道人さんの2つの顔を持つ背景に迫りたいと思います。よろしくお願い致します。

早速なのですが、そのコスチュームはなんなのでしょうか…?

宮本
宮本

どう見ても「キイロショウジョウバエの成虫」でしょ。ほら、目が赤くて、身体が黄色っぽくて、かわいいじゃん! 研究対象の気持ちや仕組みが知りたければ、まず形から入る。コスプレ・モノマネは、相手を知ることの第一歩。

としちる
としちる

なるほど(汗)どのようにショウジョウバエの神経回路を研究なさっているのでしょうか?

宮本
宮本

僕は特に、前進・後退を誘発する神経回路ってどうなってるの?ってことに着目して研究を進めてる。方法論としては、遺伝学的手法を用いて一部の神経の活動を操作・測定することが多い。ある神経をオンにすると、幼虫が前進ばっかしたり。幼虫に競わせるわけじゃないんだけど、色んな行動させられるし、言うなれば「ウジ虫オリンピック」みたいな感じだよ。いつか実際に開催できればいいけど(笑)

としちる
としちる

分かりました(汗)では、ショウジョウバエの神経回路を研究することにはどのような展望があるのでしょうか?

宮本
宮本

基本的な神経回路が分かるって、人間の脳の情報処理機構の解明にも繋がるところありそうじゃない?と思ってる。基礎研究なので、すぐに何かに応用とはいかないけど、運動機能障害とかと超遠い分野ってわけではないし。まぁ、何に繋がるか分からないのが研究の醍醐味ですね。

としちる
としちる

なるほど、神経回路が分かれば運動機能障害の改善にも貢献できるかもしれないんですね!宮本さんは神経科学者としての顔を持つ一方で、評論家としても活躍なさっていますが、2つの顔を持つに至ったのにはなにか関係があるのでしょうか?

神経科学と評論の関係―問:現実とはなにか?

宮本
宮本

「現実とは何か」って疑問を、小さい頃から追い求めてる。これ、一つの見方だけじゃ答えの出せない問いだから、色んなやり方で攻めようと思ってね。

としちる
としちる

「現実とはなにか?」というと、なかなか大きな問ですね・・・いや、しかし非常に興味があります!

宮本
宮本

実は学部四年では素粒子・原子核理論を勉強してたんだけど、それは現実とは何かを知るために、まず現実自体の構造を学ぼうと思ったから。で、いま大学院で神経の研究をしてるのは、現実を観測する「自分」の側の構造を研究したいってモチベーションがあるんだよね。よく友人から、「なんで生物を研究してるのに物理学専攻所属なの?」って訊かれるんだけど、それはこういう過程を経てるからだったりする。

としちる
としちる

そこでつながってるんですね! なるほど・・・

宮本
宮本

で、評論の方も同じでさ、現実とは何かを知るために、小説や映画みたいな「虚構」の構造について考える、一つの手段。

としちる
としちる

現実を知るためにも虚構をですか。

宮本
宮本

現実では物理法則って変わらないけどさ、虚構では好きに設定できる。でも、我々が見てる現実だって、現実そのものというよりも、脳を通して自分に理解しやすいよう再構成した虚構でしかない。主観的には、虚構は現実のヴァリエーションの一つであり、現実が虚構のヴァリエーションの一つでもある。そういうことを考えるには、哲学の道に進むのもアリかもしれないんだけど、現場で「実在するモノやコト」を起点に思考を廻らすのも楽しいかなって。

としちる
としちる

宮本さんは、研究者として「知る」だけじゃなく、自分で「作る」し、「評価する」ってこともマルチになさってますよね。その根本に「現実とはなにかを探りたい」という意志があると聞いて宮本さんの活動する輪郭が見えてきました。

宮本
宮本

研究のモチベーションって、好奇心だけがピックアップされがちだけど、別の情熱の持ち方もあってさ、それが「作る」とか「評価する」って軸。「現実とは何か」を「知る」だけじゃなくて、「現実とは何か」を「作る」「評価する」ってのも面白いじゃないですか。例えば、自分で一つの世界観を構築するため、研究を通して世界を見つめ直す。あるいは、虚構を体系化するために、研究の方法論や蓄積された知識を援用する。そういう中で、自分にしか見えない現実の姿が見えてくるんだと思う。

「科学界のウォルト・ディズニー」に込められた意味

としちる
としちる

宮本さんは、2016年科学技術社会論夏の学校で実行委員長をしたことを始め、若手の会といったコミュニティにもよく顔を出していらっしゃりますよね。そういった活動もこれまでの話とつながってるんでしょうか?

宮本
宮本

「友達」という繋がり方が好きっていう、単なる趣味の部分も大きいけど、「現実とは何か」に近づくための手段として、研究を「広げる」活動をやってるっていう側面もあるね。僕が独自に研究を進めたとしても、一人でできる量なんてたかが知れてる。色んな人が興味を持って科学に参入して、色んな分野が組み合わさってこそ、新しい観点が生まれるんじゃないかな。僕はそれを盛り上げる役回り。

としちる
としちる

それはその通りですよね。それでも分かり切ることができない領域もありますが・・・

宮本
宮本

だからこそ、新しい科学文化を作るってのが大事になってくる。科学が解明されてく一方だと、どんどんつまらなくなるじゃん。分からないことが増えた方が面白い。分からない科学と向き合って議論する文化を作るのは大変だけど、それには科学文化の一プレイヤーとしての研究者だけじゃなく、領域外も見つつ現実を編集できるエディター的な存在も必要だと思うんだよね。だからこその「科学技術社会論」とか、「若手の会」ってこと。

としちる
としちる

宮本さんの一見バラバラに見える活動がつながってきました。

  1. 理論物理
  2. 神経科学
  3. 虚構
  4. 科学コミュニケーション

は「現実とはなにか」に対する多角的なアプローチであり、そこにはプレイヤーではなくエディターとしての志向性があったんですね!

宮本
宮本

そうだね。僕はよく「科学界のウォルト・ディズニーになる」って冗談半分に吹かしてるんだけど、実際に半分は本気。ディズニーって新しい文化を丸ごとプロデュースした感じだからね。一プレイヤーとしてだけじゃなく、「科学文化作家」みたいな存在になれたらいいな、と思う。実際、「科学テーマパークを作りたい」とか色々妄想してます。

としちる
としちる

本当に実現しちゃいそうでワクワクしますね(笑)

中高校生のころに抱いた計画

としちる
としちる

壮大な野望をお持ちの宮本さんですが、いつからこのように考えるに至ったのでしょうか?

宮本
宮本

高校入った時には、今の方向性は確定してたよ。素粒子系の理論物理と脳系の生物物理を研究して、並行してノンフィクションとフィクション書いて、って進路を決めてた。

としちる
としちる

高校1年生のときからというのは末恐ろしいですね・・・!

宮本
宮本

高一の終わりには、サイエンスライター的な活動をするとか、「友人との繋がり」を重視した活動をするとか、ジャンル横断的な活動をするとか、未来像の細部まで思い描いてた。そういう細かいビジョンを持ったのは、『ペンローズのねじれた四次元』って本を読んで、サイエンスライターの竹内薫先生を知ったのがキッカケ。竹内先生の本は科学書なのに、フィクション部分があったり、研究者の人となりが描かれていたりしてさ、科学も「人」の見方ありきで生まれているんだなぁって、その書き方に衝撃を受けた。。

としちる
としちる

科学といえど、もっと広く言えば哲学といった学問すべて、なんだかんだ「人」が行っていますもんね・・・

宮本
宮本

「人」同士が出会うことが、現実を変えるんですよ、大げさに言えば。僕は、竹内先生に、高一のときに直接お会いしてインタビューさせて頂いたんだよね。学校の課題で、その取材をもとにレポートを書いたんだけど、有難いことに、竹内先生がそれをご自身のウェブサイトに載せて下さったという。このレポートが僕にとって契機だった。人の目に触れる文章を書くってこういうことかと初めて実感したね。「繋がりから開ける世界 宮本道人」とかで検索すれば、今でも読めるはず。

高校生や大学生に向けてのメッセージ

としちる
としちる

これから大学に入学して学ぶ高校生や大学生に向けて一言ありますでしょうか?

宮本
宮本

「職業を夢として考えない!」ということ。

としちる
としちる

その心は?

宮本
宮本

職業って、夢を実現するための手段だと思うんです。よく、「宮本さんは研究者志望ですか? 批評家志望ですか?」みたいに訊かれるんですけど、そんな肩書きはなんだっていい。見たい未来があるから、それに向けて色んな職業を手段として用いるだけ。時代にあわせて、必要な方法論も変わるでしょう。職業名という名詞に縛られていては、柔軟に行動できない。同じ職業だって、昔とやってることはまるで違ったりする。学問という大きな枠組みだって、今後何によって作り変えられていくか分からない。既存の職業観念を超えたところに、新しい文化を掴み取るキーがあると信じたいね。

としちる
としちる

なるほど。とてもよく分かります。「なる」ことそのものよりも「する」「したい」が大事ですよね!

そんな宮本さんは、高校生に抱いたころの道筋としては大筋予定通りに辿ってきたかと思います。今後の展望としてはいかがなんでしょうか?

宮本
宮本

インド映画監督になりたい。

おすすめ本

限界研[ら編]『ビジュアル・コミュニケーション──動画時代の文化批評』(南雲堂、2015年)

秋山裕之・小西公大『フィールド写真術』(古今書院、2016年)

宮本
宮本

分野横断的視点が楽しめる、オススメの二冊。ともに拙論が収録されていて、前者では動画、後者では静止画という切り口で、科学文化を考察しています。

インタビューを終えて

「現実とはなにか」という問から理論物理学、神経科学、虚構、科学コミュニケーションと多岐にわたる分野にて活躍を見せる宮本道人さん。高校生や大学生に向け、職業意識に縛られないことが大事というメッセージを残し、今後はインド監督になりたいそうだ。

一体彼はどこに向かっているのか。冒険は続く・・・

宮本道人さんの活動をもっと知りたい方はこちら。

Twitter:@dohjinia
Webサイト:宮本道人 (Dohjin MIYAMOTO)

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