アカデミックインタビュー

専門的な知識や研究内容ではなく、広く学びに携わる・携わった「人」に焦点を当て、どのような経緯を経て今に至るかといったことを探る記事カテゴリー、それが「アカデミックインタビュー」!

「目に見える形であらゆるプロセスを記述したいんですよ。」

そう、話すのは東京大学にて、分子科学分野の研究を行っている水野雄太さん。

第11回のアカデミックインタビューでは、

  • 研究分野の分子科学
  • 研究に至った経緯・背景
  • さまざまな若手の会夏の学校に参加した経緯

などについて、水野さんにお聞きしていきます。

Profile

水野雄太さん

専門分野:分子科学

研究方法:数値計算(量子波束計算など)、紙と鉛筆

得意なこと:考え続けること

実績:論文(筆頭著者)×2/第18回理論化学研究会優秀講演賞/第11回分子科学討論会優秀ポスター賞/分子科学若手の会代表・関東支部局長(2016年)/第56回生命科学夏の学校シンポジウム長 etc.

分子科学―物理学と化学をつなぐ架け橋

こんにちは!ご専門である分子科学に留まらず、科学領域におけるプロセスを記述をするための研究をなさりつつも、さまざまな若手の会に参加する水野さんにお話をお聞きします。本日はよろしくお願い致します!
水野
はい、よろしくお願い致します。
まずは分子科学とはそもそもどんなものなのか簡単に教えてもらえますか?
水野
そうですね、分子というのはさらに分けると原子になるのは皆さんご存知だと思います。さらに個々の原子は原子核と電子といったようにどんどんと分けていくことができるのですが、非常にミクロな領域になってしまうんですね。そこで、ミクロな領域のさまざまな化学反応を分析するためにも、物理学分野から発見された量子力学を用いることで、分子の性質を探求したり、全く新しい分子を探す研究をするのが分子科学なんです。
なるほど、ざっくりいうと「物理学」と「化学」の領域をかけ合わせて、ミクロな分子の世界で何が起こっているのかを探求すると。物理学の領域、特に原子核については小林さんが研究を行っていましたが、同じく量子力学を用いた研究なんですね!
量子力学:現代物理学の根幹をなす理論。超ミクロな世界物理世界を記述する際に主に用いられ始め、マクロな物理現象を取り扱ってきた古典力学的な現象にも記述することができる。

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2017.09.19
水野
ミクロな世界を分析・記述するということは、たくさんの粒子が連続的に位置を変化する様を追わなくてはならないので、非常に複雑な計算をする必要があるんです。主に用いられるのがシュレディンガー方程式というものなんですが、実は時間がかかり過ぎてスーパーコンピュータを使っても解けないほどなんですよ。
スーパーコンピュータでも扱いきれない世界がミクロな世界で展開されているというのは、如何に自然の成り立ちが摩訶不思議なものかを示しているようですね…
水野
複雑なんですが、人間や機械にも扱えるレベルに落とし込む必要があるんです。必要な情報を抽出するために僕らが何をするのかというと「近似」を入れます。
近似とは簡単に言うとどんな概念なんでしょうか?
水野
そうですね、複雑なモデルを妥当そうな仮定を置くことによって単純なモデルに変化させることなんですが、近似を行うに当たっては仮定がどの範囲で成り立つのかをきちんと考慮に入れることが大切です。近似を行うにも、解析する上での有効性もないとただの単純化になってしまうのは元も子もない話しになってしまいますから。

研究―シュレディンガー方程式から化学反応の方程式を導く

分子科学では近似を行いながら、人や機械でも理解できるものに変化させて、分子の性質に迫っていくというわけですね!水野さんはその中でも特にどのような研究を行っているのでしょうか?
水野
僕は複雑な情報を削ぎ落としながら、分子のダイナミクスを◯と→からなる構造体として捉えるための研究をまずはやってますね。よく分からない連続的で複雑なプロセスから如何に必要な情報を抽出して、人間が理解しやすく計算機でも扱いやすい構造を取り出すってのは理論的な科学においては普遍的な問題設定かなと思っていて。言うなれば、それの化学版を僕はやってます。
なるほど、化学におけるさまざまな反応といったプロセスを理論的に可視化させようとしているんですね。その研究をすることによってどのような意義が分子科学において見出していけるんでしょうか?
水野
人間の目で見渡せるようになることで、感覚的・視覚的・論理的理解と結び付けられるってことですね。
水野
気持ちよくないですか?ちゃんと◯と→で視覚的に見ることができるのって。
えっ、いや、そーですね、、僕は好きですよ!分かりやすくさまざまなプロセスが可視化されているのは。けど、これって研究の意義あいとしてはかなり水野さんの趣向にも寄ってる側面があるってことなんですかね?汗
水野
それもありますが、動的で複雑な分子のダイナミクスを構造としてグラフ化したものを、さらに長い挙動スケールで見るようにしていくというアイディア1)ちなみに、このアイディアを実装してみたところ、うまくいく場合とうまくいかない場合があることが分かりました(研究継続中)。があります!そうすることで、今まで化学現象を常識的に理解していた近似も明らかになって、そこに敢えて人間の操作を加えて近似を破り、新しい分子を生み出すといったことにつなげることができるはずだと考えています。
なるほど!新しい分子を生み出すためにも、分子を成り立たせている性質やダイナミズムを知らないといけないわけですね。
水野
そうそう、つまり二段階になります。最初に、複雑な分子のダイナミクスをグラフ化させられるだけ明らかにして、次にわざと違う仮定を入れることで新しい分子を作っていけることになるというわけです。化学の分野には物理と違って、ものづくり志向があるんですよね。
ものづくり志向。なるほど、化学と聞いてその視点をあまり持ったことがなかったです。
水野
実際、日本化学会ではアカデミアの人だけじゃなくて企業の人も時に会長を務めてるんですよね。

研究に至った動機

水野さんの研究の理論的な部分と、応用につながっていく側面が分かってきました!ところで水野さんはなぜこのような研究をするようになっていったのでしょうか?
水野
うーん、生きるのがつらかったからですかねー。生きるのが苦手だったんですよ。
と言いますと…?
水野
なんだろうね。全部だね。人生の攻略本とかないかなって高校の頃に探していたんだよね。
そんな時期もあったんですね。僕からの目で見ると非常に楽しそうに生き生きと活動しているように見えていたんですが…
水野
高校2年生の秋には学校に行ってなくて、持病のアトピーも悪化して、学校にいけなくなっちゃってね。高3の時には学校に行かなくなってしまたんだ。でも、そんなこんなでフラフラしている時に、たまたま『フェルマーの最終定理』の新聞広告を見つけてさ。なんとなく買って読んだら「数学者かっこいいな」って思うようになって、挽回するためにとりあえず東大入ろうって思ったんだよね。
受験勉強はどうでしたか?
水野
受験は攻略方法がある程度確立されているからやればできるようになるんだよね。この頃にはもう研究者になることも決めてたよ。最終的な目標はもっと生きやすくなりたいんだよね。まぁ、大学入っていろいろとかいつまんでみたんだけど、数式与えると結果が出るようなもので、生き方がどうのこうのとシュミレーションできるものはないんだなって思ったかな。
そう思ってたところからなぜ今の研究につながっていったんでしょうか?
水野
ひたすら迷ってたんだけど、数学的なものを使って生物的なものを制御できればとか考えていくようになって、東大にある「教養学部基礎科学数理科学分科」ってとこを気に入ってね!
どんなとこだったんでしょう?
水野
「物理、化学、生物」といった3つの分野の実験を全部できるとこだったんですよ。なんかもったいなくないですか。せっかく学費払ってるんだから。いや、学費免除もらってるから払ってないけど(笑)
国立大学の強みですよね(笑)水野さんは、研究も精力的になさってますが、いろんな若手の会にも参加されてますよね?

分子科学若手の会

水野
そうですね、分子科学若手の会の代表もやってました。フットワークはそれなりに軽い方でね。学振受かりたいからという理由で3若手の会が合同でやってる学振セミナーに行ってたんですよ。
学振:日本学術振興会特別研究員の略。一部の博士課程に在籍する院生に給付型の援助をする制度のこと。研究者への登竜門だともされている。
3若手の会は、「生化学若手の会」「脳科学若手の会」「生物物理若手の会」ですね。そこから代表になって、「分子科学若手の会」を含めた4若手の会にしたんですよね?
水野
そうだね、そういえば脳科学若手の会に行った時に宮本道人と会ったんだよね。分子科学若手の会も1年に1回、夏の学校をやるためにしか集まってないのがもったいないなって。

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2016.12.22
夏の学校:夏休みの時期に若手の会が中心となって講師を呼び研究のためのセミナーや若手研究者同士の交流を深める催しのこと。
めちゃめちゃ行ってますよね若手の会(笑)僕がはじめて会ったのはSTS(科学技術社会論)夏の学校でしたが、サイエンスコミュニケーションにもしっかり携わっているのがすごいなぁと思ってました。
水野
夏学に関しては一番詳しい気がします(笑)

最後に一言

最後にこれから分子科学を学ぶ初学者に向けた一言は何かありますか?
水野
すべての科学理論は近似だと思うので、その近似が成り立つ範囲を明確に意識して勉強していくのがいいと思います。何を前提にするのかを明確にしないとごちゃごちゃになってしまうかなと。新しい世界を見るために、敢えて理論を崩していくためにも境界線を認識する必要があると思います。
さまざまな若手の会といった枠を越えていく水野さんの姿勢にも通ずるところがあるような気がしますね。
水野
「はみ出していく」っていうところはそうだね。常識の枠がどこにあるかはしっかり考えないと、「越境」することはできないから。
越境。
水野
駒場のスローガンに「越境する知性」ってのがあるんですよ。学問っていろんな前提とか領域といった背景があるから、そこはきちんと理解しないとですよね。実践できているかは分からないですけど、ちゃんと意識していきたいなと思っていることです。
ただ「越境」すればいい、「なんでもありなんだ」ってことではないですもんね。お話、ありがとうございました!

おすすめ本

水野
学問の世界に足を突っ込むきっかけになった本として『フェルマーの最終定理』を推したいですね。『速度論』は僕の好きなプロセスを記述するエッセンスが詰まっている本で学部2年生くらいにおすすめです。

インタビューを終えて

「複雑なプロセスを記述したい!」とお話する水野さん。

実は物理学、化学に限らず、これから生物学、地学の領域すべてで論文を書きたいともお話していました。

科学的アプローチとしての「①観測②推論③決定④行為」として、あらゆるプロセスは記述していけるんじゃないかという野望を持つ水野さんの意欲的な姿に、コミュニケーションを学ぶ僕としても刺激的なインタビューでした。

一方で、研究に至った背景としてあった「生きづらさ」というのも、「如何に生きるか」を根本的な問いとして持つ僕の心に残ったしこりのようなものがあります。

プロセスを記述する、さまざまな階層といった領域を越える姿勢に研究者としての探究心をありありと感じさせる水野さんの姿勢に学ぶことは多くあるのではないでしょうか?

今後の水野さんの研究の行先が楽しみです!

References   [ + ]

1. ちなみに、このアイディアを実装してみたところ、うまくいく場合とうまくいかない場合があることが分かりました(研究継続中)。


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ABOUTこの記事をかいた人

としちる

代表/編集者。日本サッカー協会に所属するコーチを目指して筑波大学体育専門学群を目指すも、受験前に父親が逃亡して宅浪生活2年間を送った後、国際総合学類に入学。タイにて日本語指導と留学も経験。専攻は社会言語学、専門は言説分析。運営サイトは4つ、記事執筆数は250以上、イベント運営に携わった数は50以上(17年8月現在)。「教養」をテーマに活動している。