Share Study初連載となる「まちづくりのエスノグラフィ」第一回から第五回までの記事が出揃いました。連載記事は早川公(2018)『まちづくりのエスノグラフィ 《つくば》を織り合わせる人類学的実践』のエッセンスをまとめたものです。
以下、各記事の紹介と最後に担当としちるによる編集後記を記します。
第一回 ぼくとつくば①―地域開発(まちづくり)が展開される中での
文化人類学、応用人類学を専門とする著者が学生時代を過ごしたまち、「つくば」。「筑波」と「つくば」という呼称をめぐって読み解く地域開発の展開を追います。
第二回 「筑波」と「つくば」ぼくとつくば②ー地域開発の中で混じり合う《つくば》
文化人類学、応用人類学を専門とする著者が学生時代を過ごしたまち、「つくば」。「筑波」と「つくば」が《つくば》として混ざり合うに至った経緯と、地域認識を捉える方法に関する記事です。
第三回 ぼくとつくば③―「逆に新しい(=再帰的)」まち・北条
一周まわって「逆に新しい」とサンロクのフィールドワークで学生がこぼしたことばから、現代社会の特徴と言える「再帰性」と近代における「大きな物語」の終焉に至る「ぼくとつくば」の回顧録としてつくば・北条での活動を取り上げます。
第四回 まちづくりと人類学―文化現象・社会的行為としてのまちづくり
近代化に伴って進められた「まちづくり」、その研究の潮流を整理し、総体性(holistic)を重視する人類学として「まちづくり」を研究する位置づけについてのまとめです。
第五回 まちづくりと人類学的実践―毎日フィールドワークのすすめ
他者への関わりを通じて自己を「分かりなおす」学問である人類学を研究すること、実践することという境界線を取り払っていくという毎日フィールドワークのすすめ。
編集後記―開かれつつ研ぎ澄ます学知
人類学はアメリカでは文化人類学、形質人類学、考古学、言語人類学に分けられ、英仏では文化人類学は社会人類学とも呼ばれています。しかし、今回の内容は主に文化人類学の議論を引き継ぎ、社会学者ギデンズの「再帰的近代」を現代日本社会の特徴として位置付けし、「まちづくり」を人々の社会文化的行為として捉え直すという、やや変則的な内容でした。
2011年、人口減少社会を見据えた社会をいかに整えるかが議論に挙げられている中で起きたのが東日本大震災。震災をきっかけに広義の「まちづくり」活動が「地方創生」ということばを旗印に展開されている中で僕は大学生活を過ごしていました。同時に発達が進む情報技術によって誰しもが情報発信者であり、つまりは媒介者(メディア)となって自分自身の人生や価値観、取り組みを発することが可能になっていった時期でもあります。
こうした状況の中、自分自身もメディアとなって全国を駆け巡っていた際に出会ったのが筑波山麓をフィールドとしたエスノグラフィを十数年間行ってきた早川公さんでした((2017年、「これからの大学を考えるACADEMIC CAMP!」を実施するため、参加者を募るため全国47都道府県を巡っていました(開催経緯)。その際、お世話になっている先生から紹介をいただいたのが早川公さんです。))。 僕と早川さんは過ごしてきた学生時代も違いますし、学問分野も異なります。ですが、ことばを交わす中で「大学」や「まちづくり」といったものを起点に”同じような問題意識”を抱えていることがわかりました。
それが「学問」と「社会」との希薄にも思える“関係”です。論文“だけ”書けばいいと思っている研究者の方ばかりではありませんが、自分のなしてきた研究成果を問いかけること、逆に問いかけられること、また応じあっていくことは、あまり上手くなされているように思えません((早川さんが実施されたフィールドワークと研究は注意深く「まちづくり」という対象との距離を保てるように行われていました。一概に「学問」と「社会」と結びつければいいという単純なものではないとも考えています。))。
情報技術の発展が進み、誰しもが発信者となる中で、(遅い)”学問”を学ぶということ、納めることの価値がどこか背景化されていると思うのです。少なくともこうした状況化の中で人(社会文化)と関わる人文学において、これからに向けた取り組みを整えていくことが重要でしょう。
そうした取り組みの一環として、早川さんの出版をきっかけに実施したのが一連の連載です。「人間の営みをわかり直すための学問」としての人類学は、早川さんも言うように、単なる人類学者だけのものではなく、ある意味では誰しもが実践できる営みです。
しかし、それはもちろん、「なんでもいい」といったありきたりなものではなく、これまで専門的に従事してきた研究者たちによる知識・経験の積み重ねに対し誠実であってこそより意味をなすもののはずです((今回の研究は「まちづくり」というキーワードを元にさらに都市工学や社会学をはじめとした学問分野とも結びつくでしょうし、上述した実践としてなされている「まちづくり」に関わる人びとと“研究”との関わり方、活かし方といった意味で、まだまだ広がりがあるはずです。実際に地域に出向き活動をするといっても行き当たりばったりばかりでは進歩がありません。専門家/非専門家の境界線は確かに揺らいでいる時代状況ですが、単に“やればいい”で済まさないための比較検討(歴史、地域 etc.)をはじめとしたあり方はこれからも模索されていくでしょう。))。Share Studyでは、アマチュアとプロを紡ぐひとつの架け橋になれたらと思っています。些細なきっかけにしか過ぎないにしても、積み重ねることによって、いつか「意味」をなしえます。そうした可能性を閉ざさぬよう、広げられるよう、運営を続けていきたいと思います。