2010年には大学進学率が50%を越えてきた中、大学全入時代と言われるように高校生の半数以上が大学に進学するようになりました。
もちろん、これまで大学に進学できなかった方、今も進学したくてもできなかった人がたくさんいますが、一方で1950年代や60年代に比べればかなり多くの人が大学に関わるようになってきました。
学生に限らず、大学に進学させた親御さんも、職場で大学出の人びとと接する中で、多くの人が大学に一言申しやすくなったことでしょう。
そんな中、
「そもそも大学ってなんのためにあるの?」
という声が内外から問われてしまってきているようです。
言うなれば「就職予備校化」された現在の大学にはこれまでどんな経緯があったのか。
そんな問いを持つ方にはぜひ読んでもらいたいのが本著作!簡単に内容をご紹介しましょう。
レッツ・シェアスタ!
『「大学改革」という病』概要
挑戦的なタイトル『「大学改革」という病』なる本著では、大学改革の現状から大学の歴史や社会的背景も含めてコンパクトにまとめられています。
著者は科学哲学を専門とされる山口裕之先生で出版された現在は徳島大学准教授です。実は山口先生は大学組合の書記長をやっていた関係から様々なことを調べ、経験に議論を重ねており、昨今の大学改革に物申すための書籍として執筆されたそうです。
- 「第1章 日本の大学の何が問題か―大学改革の論点と批判」で、昨今の大学改革の論点をまとめつつ、
- 「第2章 なぜ巨額の税金を使って「学問の自由」が許されるのか」では、大学が誕生した経緯や発展の歴史を解きほぐしていきます。
- 「第3章 大学の大衆化と「アカデミック・キャピタリズム」」においては、大学が段階的に大衆化していく中で「企業化」する大学について問題提起がされ、
- 「第4章 選抜システムとしての大学」で日本の大学では教育(人的資本論)よりもスクリーニング(選抜)機能が重視されていることなどをあげ、
- 「第5章 競争すればよくなるのか」においては、昨今の学校運営や研究資金獲得で重視されている「競争」についての問題点を指摘していきます。
『「大学改革」という病』の基本データ
大学関係者にもそうじゃない人みんなにも読んでもらいたい
本書は、次のような文からはじまります。
民主主義とは、すべての国民が賢くあらねばならないという無茶苦茶を要求する制度です。その無茶苦茶を実現するために大学というものは存在しています。企業に有為な人材を育てるためではない。
これは、著者が2013年に出版した『コピペと言われないレポートの書き方教室』という本で書いたものを自ら引用したものです。
著者にとって、とても重視しているからこそ再度強調してこのことばが文頭に置かれたのでしょう。「おわりに」では再びこのように語られます。
意見を異にする人に対して、自分の主張を強権的な仕方で押しつけるのではなく、相互理解を目指し、お互いに納得できる合意を形成することが、本来の民主主義社会における政治の役割である。お金の力を借りて、無理矢理言うことを聞かせたとしても、いやいや従う人間が誠心誠意最大の力を発揮しようとするわけがない。
そして、本当の本当に最後に締めくくられるのがこのことば。
現在、大学だけでなく、日本社会全体が、根本的な変容を余儀なくされている。そうした状況にあってこそ、われわれは、多面的な知識と合理的な判断にもとづく合意形成によって、将来の日本社会のあり方を作り上げていかなければならない。この本が、そうした手間はかかるが有意味な議論のたたき台となることを願っている。
すべてのことを知ることはできませんが、知る努力をした上での、多角的な認識のもとで、相手の立場を重んじる議論ができれば理想的ではないでしょうか?
議論の作法を研究の実践から学べる「大学」という空間を今一度考える著作として、おすすめです!
こちらの本を出版するに当たってトークイベントも行ってらっしゃいました。その内容は著者の口からさんざんと語られていますので以下のシリーズにもぜひ目を通してみてください。