Share Studyとメタ若手ネットワーク―学術コミュニティーの調査・分析・接続・改善に向けて

2018年12月1日、『文系と理系はなぜ分かれたのか』の著者である隠岐さや香さんをゲストに招いた『第2回  科学技術社会論Cafe』にShare Study代表としちるが潜入してきました。

今回のイベントでは「単に本の紹介をしたり、歴史的なことだけ話しても面白くないだろう」という隠岐さんのあいさつのもと、前半1時間は内容+αの紹介、後半2時間は参加者による質問やディスカッションを中心としたものでした。

「文系と理系」の議論から、徐々に「大学改革」や「イノベーション」をはじめとした昨今の潮流に関する議論が白熱し、終わった後の懇親会も突っ込んだ話をするとても良い機会だったのですが!

本記事では、「Share Studyとメタ若手の会(仮)」という、上記のイベント終了の後に隠岐さんに相談させてもらったことについて“薄めたカルピス”のような中間レポートとしてまとめるものになります。ざっくり言ってしまうと、「メタ若手の会(仮)((「メタ若手の会」グループに関する呼称については、まだ決定しておらず、議論をしております。))(以下、メタ若手の会)若手中心に学術的交流や情報の共有を進め、研究環境の改善や社会的意義を問い直す取り組みです。

と書くと聞こえはいいのですが、まだまだアイデア段階で、かつ大きな課題意識ではあるがゆえに、「若手がどうのこうので一朝一夕なんとか上手くいく」という類のものではありません。少なくともShare Studyは中長期的な目線を持って取り組みをしていきたいと考えています。ぜひ、本記事を読んでくださる方々とのディスカッションをするきっかけとなると幸いです。

としちる

日本サッカー協会に所属するコーチを目指して筑波大学体育専門学群を目指すも、受験前に父親が逃亡して宅浪生活2年間を送った後、国際総合学類に入学。タイにて日本語指導と留学も経験。専攻は言語人類学、専門はディスコース研究。全国47都道府県をめぐり、「これからの大学(学問×地域×教育)を考えるACADEMIC CAMP!」を主催。運営サイトは4つ、記事執筆数は250以上、「教養」をテーマに活動しています。

ADVENT CALENDAR 2018―3日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!

メタ若手ネットワークとは

Share Studyが2018年3月末に実施した「これまでを学び、これからの大学を考えるACADEMIC CAMP!」で集ったメンバーやそのメンバーの知り合い数名で2018年4月から月一度の情報共有や勉強会を実施してきました。その集いを「メタ若手の会」と呼称しています。メタ若手の会は、2018年11月にキックオフイベントを開き20名前後の方々ともさらなるディスカッションを行い、その延長線上で行われたのが冒頭で紹介した「科学技術社会論Cafe」となります。

主に3つの取組みを志向しています。

  1. メタ若手ネットワーク(コミュニティー)
  2. 日曜研究大学大学院(ハード)
  3. オープンサイエンスに向けたシステム構築(ソフトウェア)

それぞれ取り組んでいることはバラバラではあるものの、「学術コミュニティー」における課題意識を共有する中で取り組みを進めているものになります。Share Studyは一つ目の「メタ若手ネットワーク」に関する部分で協力をする意向で関わっています。

「メタ若手ネットワーク」既存の「若手の会」をはじめとした「学部生から大学院生」中心に、学際交流や情報共有を促進することを目標とした取り組みの総称です。「若手の会」は理工系の学会の直属に構成されています。組織によって事情は異なりますが、年に数回の「セミナー」や夏休み期間に実施する「夏の学校」を主に実施するのが「若手の会」です。

ただし、こうした「若手の会」はほぼ理工系で構築されており、人文社会系は事情が異なり、小さな研究グループが無数に散らばっている状態になっています。メタ若手ネットワークでは、このような状況を認識しつつ、これからに向けた研究環境の改善に向けて、各若手の会の代表をはじめとした人物との関係性を構築していくことを考えています。

仮説―学び合いの仕組み改善と若手中心の声の表象

上記のような取り組みにおいて、Share Studyの立ち位置を簡単にまとめましょう。Webメディアとして『Share Study』を運営する中で、単なる情報発信で終わるのではなく、あくまで「人」を中心に添えた「学術的コミュニケーション」を促進することにShare Studyは重点を置いています。ここで言う「学術的コミュニケーション」とは、あくまで学術的話題に関して「真摯さ」を伴ったやりとり(引用や概念をはじめとした他分野や一般の方に向けた表象への配慮 etc.)を指します((テッサ・モーリス・スズキ(2014)『過去は死なない―メディア・記憶・歴史』では、さまざまなメディア技術の登場と台頭する歴史修正主義への問題意識から、「歴史学的研究」における真摯さを伴ったやり取りの意義を提起しています。この本で直接的に述べられているわけではありませんが、「真摯さ」という概念は、歴史学に限らず、あらゆる学問分野においても重視されるべき基礎的な志向性であると考えていることを次の記事でまとめています。 Study Noteことはじめ―真摯さと葛藤と<探究>とShare Studyの役割))。

具体的な取り組みとして、Share Studyを半オープン化する仕組みとして構築しているのが「Share Studies」です。メタ若手の会によるディスカッションの中から徐々にこの取り組みは形作られ、広く学術的知見を得るきっかけや異なるまなざしを持った探求者とのディスカッションをする機会となるように設けたものになります。メタ若手の会のメンバーをはじめとした、Share Studyに関わるメンバー各自が「ポートフォリオ」を作成しつつ、自身の専攻・専門や活動・研究について紹介することや、時に寄稿記事として意見や研究成果を発信する場(Open Share Study)を目指しております。

上記のような「プロセス」を介して「学び合う」関係性をつくることで、参加者共通の関心になりえるであろう大学改革をはじめとした社会的変化の中で、学術的探究を行おうとする研究者、特に若手の声を表象することができるのではないか、という仮説を持ち、Share Studyの運営を行っています((Share Studyのnote記事、『批評/批判/対話的なコミュニケーション空間を熟成させたい』にて、バフチンの「対話」や「声」の概念に関しての簡易的な説明をしています。))。

課題―調査・分析の必要性

しかし、ひとえに「学術コミュニティー」といっても多種多様かつ利害関係もバラバラのため、まとめるのはそう容易なことではありません。Share Studyからの情報発信だけではなく、その他にも活動を展開する各企業や団体なども関わる、情報が蓄積されることを目指していますが、運営者側の「恣意性」はどこまでも拭えません

また、安易な開放系を志すと良くも悪くも人間関係をはじめとした問題が浮かび上がることも運営を通して実感しています。

メディアを運営する上で編集方針を設定し、情報の取捨選択をするということには恣意性が介在してしまいますが、「メディア」を運営し読者との関係性を構築するという意味では恣意性はあって然るべきものだと考えています。ですが、それをただ単に称揚することは、タイトルに示している「Share Study」という、まさに学び合いを阻害しかねないとも言えるでしょう。

上記のような「仮説」を持ち理想を語るだけでなく、実際にShare Studyやメタ若手の会をはじめとした取り組みで何が起こっているのか、どう改善できるのか、もしくは本当に必要な取り組みなのかを調査・分析するまなざしを持ち、仮説を練り上げる、時には「破壊」することも必要だと考えています。では、「その分析や評価をどのように行うのか」というのも、今後の要検討課題に添えています。

実践―オートエスノグラフィーによる反省的記述

「Share Studyそのものを実践しつつ、反省的なまなざしを持って改善を図ることで、中長期的に学術的研究の仕組みや環境を改善し、その価値の向上を図る」ことを意識し、「Share Studies」や現在実施中の「ADVENT CALENDAR」があります。このような実践志向を持つ研究として、Share Studyの代表としちるである僕は人類学的な分析をしていく予定です。

上記のように、「僕は」でまとめるのではなく、「代表としちる」という呼称を使うことは、人類学的にフィールドノーツを書き記していく上で、自身を客体化するという技法の一つです。人類学的研究の中でも、特に「オートエスノグラフィー」という手法を用いて、Share Studyを運営しつつも、さまざまな人々との関わりや社会文化的状況における自身の立ち位置を反省的に捉えていきたいと考えています((オートエスノグラフィーとは、「自分の経験を振り返り、『私』がどのように、なぜ、何を感じたかと言うことを通して、文化的・社会的文脈の理解を深めること」と藤田結子・北村文(編)(2013)『ワードマップ現代エスノグラフィー―新しいフィールドワークの理論と実践』新曜社、P104-111、井本由紀「オートエスノグラフィー―調査者が自己を精査する」と述べられています。))。

オートエスノグラフィーとしての記述を試みつつ、さらに内外部からその様子を「エスノグラフィー」するという、二重の分析的記述を共同研究を行い、試みようともしています((「Share Studyを介した学術コミュニティー/コミュニケーションの研究」は、研究計画などをはじめとした議論のすり合わせ中ですが、日常的に情報共有を行っています。))。

こうした取り組みは、2018年3月末のACADEMIC CAMPをきっかけに構築されてきました。まだまだ走りがけの中途半端な取り組みです。仮説を持ちつつ、その改善を図るために反省的に分析を行っていき、さらにそれらをインターネット空間に放つことで、外部からのまなざしも取り込んでいけるようにしていきます。

ではでは、ぜひディスカッションを重ねるきっかけになれば幸いです!