言語によって思考が決まる?言語相対論/言語決定論/サピア・ウォーフ仮説における意味の違い、批判、経緯

【問・論争】言語によって思考が決まってしまうのか?

言語が異なれば私たちの見てる世界も違うのでしょうか?

言語によって私たちの思考は決まってしまうのでしょうか?

そのような疑問から論争を巻き起こしたアカデミックワード、それが「言語相対論」、または「言語決定論」、「サピア・ウォーフ仮説」です。

【関連する分野】言語学・心理学・人類学

これらの専門用語は主に言語学や人類学といった分野から始まり、心理学でも取り上げられるようになりました。

言語相対論とはなにか

言語相対論も言語決定論もサピア・ウォーフの仮説も共通しているのは「言語によって少なからず思考や認識に影響が与えられる」ということです。

提唱者であるサピアの弟子であるウォーフがアメリカ先住民ホピ族の言語であるホピ語を分析したところ、ホピ語と英語をはじめとした標準西洋語の間には「埋めることのできない、翻訳不可能なほどの溝がある」と言って物議を醸しました。

さまざまな調査から明らかになってきた影響を及ぼす違いは次のようなものです。

  • 色の認識
  • 空間関係の認識
  • 時間の認識
  • モノの認識
  • 動作の認識
  • 文法におけるジェンダーや動物の認識

言語相対論/言語決定論/サピア・ウォーフ仮説の違い

ざっくり言うと、言語相対論の中には「強い仮説」「弱い仮説」とあるのですが、前者の「強い仮説」を言語決定論ということが多いです。

「強い仮説」では「言語によって思考は決まってしまう」というやや極端な立場を取ります。

一方、「弱い仮説」では「決定はしないが、言語が異なれば思考に影響を与える」という立場です。

また、言語相対論と言語決定論はサピア・ウォーフ仮説とも呼ばれています。

しかし、このサピア・ウォーフ仮説という名前は後世の人が勝手につけた名前だそう

「言語が違うことでそれぞれの思考が変わってしまうのか」というセンセーショナルな議論を巻き起こしたおかげで、やや好き勝手に解釈されがちになってしまいました。

相対する2つの言語学観:普遍文法と認知文法

言語学では「人は根本的にどこの点から言語を獲得するに至ったか?」という問に対して2つの異なる立場があります。

一つは、人が共通して持つ「であろう」文法概念を探求する言語学の普遍文法です。

それに対して、「いやいや、そんなことはなく言語は人が持つ認知的な機能によって獲得されたんだ」とカウンターパンチを浴びせた認知言語学があります。

この言語相対論に関する議論でも、普遍文法論者と認知言語学者で論争の的となってきました。

近年では、生成文法の祖であるチョムスキーの弟子、ピンカーは『言語を生み出す本能』(1995)、『思考する言語』(2009)の中で言語相対論に対して否定的な批判をしました。

しかし、それに対しガイドイッチャー『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』(2012)を著すなど、ピンカーの批判に対抗しています。

心理学的観点から科学的な実験で検証へ

初期のそれぞれにおける主張は科学的かというとそうとも言えない側面がありました。

そこで異なった観点から切り込みをいれるべく登場したのが心理学、とりわけ認知心理学発達心理学という分野です。

これらの分野では実際に異なる言語を持つことでどのような思考の違いが生まれるのかを実験して確かめようとしてきました。

ここでポイントになるのが、この仮説が正しいかどうかを単に見極めようとしたわけではないことです。

それよりも、言語の影響がどの程度あるのかを脳の情報処理や認知プロセス、どのタイミングで影響があるのかを探ろうとしました。

つまり、「強い仮説」ではなく「弱い仮説」に関する議論が分野を越えて起きたということになります。

結論だけ述べてしまうと心理学分野による多くの実験によって、「言語によって思考が異なりお互いに理解しえないと言えるほどの証拠はないものの、言語の多様性は非常に大きく、さまざまな認識に影響を及ぼしている」ということが分かってきました。

まとめ

こうした心理学分野からの成果から、これから問題になるのは具体的に言語の違いが

  • 見ること
  • 聞くこと
  • 理解すること
  • 記憶すること
  • 予測・推測すること

にどのように関わっているかを明らかにすることが重要だと見えてきました。

もちろん、「言語によって考え方が異なるのか?」というハッキリとしたことを探るための研究も知的好奇心震わす刺激的な問いかけであることに変わりないかと思います。

少なくとも学べることとして挙げられるのは、異なる言語を学ぶということは、その言語を用いている「文化」を学ぶということです

そうした言語が持つ多様性を知るということは、一つの言語だけでは知り得なかったモノの見方ができるようになるということでもあります。

種々入り乱れるような世界の中で、そうした気付きを得ること自体が「変化」なのかもしれませんね!

参考文献紹介

主に参考にした文献です。特に今井むつみさん著『ことばと思考』(2010)を参考にしました。この記事では細かな実験内容には触れませんでしたが、さまざまな実験成果が紹介されています。興味があればぜひ読んでみてください!

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以下の本は、言語学分野における論争として紹介した著作です。やや専門的な内容ですがこちらもぜひどうぞ!

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