S.S. BOOKSでは、Share Studyが設けるテーマに応じて、さまざまな専門分野に取り組む人がおすすめの書籍を一言そえて紹介します。ここでは、専門的な領域に必ずしも特化するのではなく、知識・関心の幅を広げたり、自身の研究に向けた焦点を据えていくための足がかりとなるよう、書籍を紹介することを目指しています。
その前に、簡単に広義の「読書の技法」に関して紹介します。あくまで紹介するのは一例です。書籍を読み進めながら、学術的な勉強・研究に慣れていく中で、それぞれにあった読書方法を見出していってください。
「読書の技法」は、本を読み進める以前の「本を探す」ところから始める必要があるでしょう。おそらく、このようなページを読んでいる人はネットを使って雑多な情報・知識を得ることに多少なりとも慣れており、その上である程度は手っ取り早く勉強を進めていきたいと考えているのではないかと推察します。とはいえ、それぞれの人によって置かれた状況や方向性、アプローチは千差万別です。そこで、書籍を探す状況の例を挙げてみましょう。
- 雑多な学びから知識・関心を広げる書籍の探し方
- 専門的な勉強・研究のための書籍の探し方
- 専門・関心を持つ一方で、隣接分野の知識・論理を抑えるための書籍の探し方
今回、S.S. BOOKS 2020では、第一に挙げた「雑多な学びから知識・関心を広げる書籍の探し方」、とりわけ高校3年生・浪人生・大学1年生に向けた書籍の探し方を紹介しましょう。
インターネットにおける情報の得方
学術的な勉強・研究をしている人が身近にいない人も多いと思います。その上で、比較的スムーズに(必ずしもスムーズにいけばいいというわけではない)学術的な勉強・研究に取り組むためのインターネットを介した情報の得方についてまとめます。
まず、インターネット上の知識・情報は玉石混交です。ある人はそんな環境のことを「ガチャガチャみたいなものだ」と表現していましたが、雑なようで適切なメタファーではないかと思います。検索、ブログ、メディア、あるいはSNSにせよ、「ここにはこういう情報があるはずだ」ということは、ある程度想像しながらインターネットを利用しているはずです。そんな中で出会す知識・情報は、実のところ「誰がどのような立場でどのような目的で」発せられたものだか分かりづらいわけです。
インターネットの情報は最新の状況把握や情報を得ることにも使えますが、誤解を生みやすい、あるいは仮想空間であることを利用した誘導的なやり取りとしても利用されます。そこで、極々当たり前ですが「距離を取りながら複眼的に接する」という、大原則はある程度身に付けるようにしましょう。逆に言えば、そのようなメタな態度を身に付ける練習にもなります。あることばが発せられる背景をよく観察する癖を付け、その状況を言語化していくことをおすすめします。
高校3年生・浪人生・大学1年生に向けた書籍の探し方
上述した捉え方を訓練しつつ、このS.S. BOOKSに限らず、さまざまな検索や口づてを駆使して書籍を探し始めるかと思います。書籍に限らずですが、何かを探索するときは「問題意識」や「キーワード」を意識するなど、「焦点化」することで観察を鋭くすることができます。漠然と「◯◯学って何?」というレベルでは読書を進める上で基礎的な知識や理解ができていない状態です。大まかな知識・情報の認識を得ることはインターネットでも入り口レベルでは可能ですが、学術的な勉強を進めるなら、基礎的な知識・先行研究を踏まえたはっきりとした「問い」を持つことが重要です。
逆に言えば、そのような「問い」を洗練化していない状態のときに、無闇に本を漁ってしまうと論点が拡散します。そこで、関心を持つ分野や対象に関して、自分よりも相対的に知識・経験を持つ同期・先輩・先生に相談し、「問い」の焦点を定めていきましょう。ある程度、自分の問題意識を伝えられれば、さまざまな書籍を勧めてくれるはずです。
言うなれば、研究分野を絞ることやさまざまな人から知識・情報を看取することは「学びの有限化」です。厳密に言えば、学習に終わりはないし、終わらせられると思うのであればそれは己の無知からくる傲慢な態度だと言ってもいいです。だとすれば、初学者としての立場を存分に使って(傲慢になるのではなく、勇敢さを持って)、興味・関心・問題意識を開示しながら先駆者の知見を得ていくのがおすすめです。
次に読書する際に意識しておくと良いポイントを簡単にまとめます。上述してきた「初学者」の立場だと思う方は、あれこれとさまざまな書籍に手を出す前に、ある程度は著名だとされる本を読むことをおすすめします。例えば、重版されて読み継がれている入門書(概説書)を複数冊読むといいです。人気の分野(◯◯学といった大分野も)であれば、かなり多くの入門書があり、それぞれにあの手この手で初学者を研究に引き入れようとする特色があるはずです。基礎的な内容はそう簡単に古びれないものですから、腰の座った内容を扱っている書籍を軸にするといいでしょう。その上で、興味関心の沿った新しめな本、また新書レベルの本を2, 3冊くらい、一気に読み進めると、ある学問分野に関するメタ的な知識・理解が進みます。
ちなみに、大学2年生か3年生で所属することになるゼミ・実験室でも、まずは「それらに類する」レベルの本を勧められるのではないかと思います(専門特化した勉強をしてきたことが前提なところはむしろそれが前提のはずですが、昨今の学際的な学部編制の状況はそのような取り組みができるゼミ・実験室が減っている、のではないかと推察)。先取って最低限の知識を仕入れておくと、「何を問いとしてとらえ、どのような前提や論理、方法で研究に取り組んでいるのか」が掴みやすくなります。初期段階で自分なりのロジックを展開するのではなく(あとでこのような態度は重要になりますが)、基礎的な知識・論理・背景を把握する癖をつけましょう。
さて、ここまで書いておいてなんですが、本を通じて積み重ねられてきた数々の世界と出会すこと、あるいはそんな世界との出会いに驚きやこれまでの認識の破壊を経験すること、読書と思考を積み重ねてつながる知識、そして地道な研究を介して捻り出される新しい発見を楽しんでもらえればと思います。当然、「研究」することがだけが読書の醍醐味ではありませんし、「読書」することが研究をすることでもありません。時に、悪戦苦闘を味わうこともあると思いますが、そんな時は知的好奇心(ちょっと悪かっこよく言えば、自分を駆り立てる内なる「怪物」)の赴くままに過ごしてみてください。
シェアスタッフ選書 2020
読書の技法をサッと確認したところで、2020年のシェアスタッフによる選書テーマを紹介しましょう!
知的好奇心旺盛な高校3年生・浪人生・大学新入生が思わず「学び」にわくわくしてしまうおすすめ本
入門学術メディアと銘打ってはじまったShare Study、そして春というタイミングということで受験生から新入生に思わず「学び」にわくわくしてしまうような本、ということで選書しました。シェアスタッフ各々の興味関心は異なりますが、一般書からちょっとした専門書までバランス良く集まったのではないかと思います。シェアスタッフの選書方針と、一言添えたミニレビュー付きです。ぜひ、気になる本を手にとってみてください。
もっちのおすすめ本

専門分野を問わず必要となる「考え方」「ものごとの捉え方」「学問的な態度・姿勢」について考えるヒントをくれる本を選びました。自分自身の考え方のクセを自覚しつつ、自分とは違う考え方・視点があることを知り、尊重することの中にこそ新たな発見やワクワクがあります。それを実感するための第一歩となる選書、が選書のねらいです。高見(2013)は、その具体的実践を学問の世界で行うときの一例として選びました。
「アイデア」や「発想力」、「クリエイティビティ」というものがしばしば持て囃されます。時に、インプットよりアウトプットの方が優れている、より重要な行為であるように感じることもあります。けれど、そんな考えと裏腹に「アイデア」を作るにはインプットが大事であることを教えてくれる一冊。「なんでこれ勉強しなきゃいけないの?」という不満を感じている人が、その不満をアイデアに変えるきっかけを得られる本です。
「科学」の成り立ち(科学史)、特徴(科学哲学)、社会的な問題(科学社会学)について網羅的に扱ったテキスト。内容が古い部分はあるものの、科学/学問について考えるときに必要な基本的な思考の筋道を端的に知ることができます。自分が学んでいる対象について、一歩引いたところからメタ的に捉えるための入門書です。
英語学(英語を対象とした言語学)の入門書。4章では、日英語の文法事項を「情報構造」/「視点」という、コミュニケーション機能の観点から分析します。これまで「そういうものだから」と暗記してきたり、漠然と書き換えを覚えてきた様々な文法事項について、実際の使用・コミュニケーションの観点から見直すことができます。「1つの同じ物事を、違った角度から眺めなおす」経験のきっかけとしてぜひ。
ゆうすけのおすすめ本

「常識の崩壊」が体験できた本を選びました。この「常識の崩壊」は、これまで当たり前だと思っていたことの解像度が高まる体験や、時には偽りであると気づくような体験のことです。このような経験を通して「無知の知」を体感できたり、物事を注意深く観察する癖がつくと思います。どちらも学びにとって重要な要素です。
自分が当たり前だと思っていた日常が足元から崩れ落ちるような本。いわゆる「認識の破壊」が体験できる。たとえば「日常に慣れ親しむお母さん(大人)と何かもが不思議に感じるトーマス(子ども)の話」や「大人たちと対比させて哲学者をウサギの毛に住むノミに喩える話」などが面白い。哲学書ながらも物語テイストになっており、とても読みやすいので、哲学に興味はあるけれど食わず嫌いなんて人にオススメ。
いかに自分がテキトーに英文を読んでいたのかを痛感できる本。著者の職業はプロの小説翻訳家であり、より良質な日本語訳を生み出すために必要不可欠な「英文の細かい意味の洗い出し」を行う。高校の英文法を一通りマスターして英語にまあまあの自信がある人には是非読んでほしい。きっとこれまで学校の授業で行ってきた「英文和訳」とプロの翻訳家による「翻訳」との違いを肌で感じることができるだろう。
言葉を獲得したところから始まる私たち人類(サピエンス)の物語を綴る本。言葉を身に付けて複雑な思考能力を得た「認知革命」や、狩猟から農業へ移行したことで人口が爆発的に増加した「農業革命」などがどのような経緯で起きたのかをわかりやすくエキサイティングに語っている。これまでの先人が考えてきたことと現代の自分たちを対比させることによって今まで当たり前のように接してきた「言葉」「貨幣」「政治」がどのような経緯で生まれたのかを知ることができる。
ひらっちのおすすめ本

自分自身の好奇心が向かう先を見定めるために役立つであろう本を選びました。学びにワクワクしている/していない「自分自身」も学ぶ対象です。「学び」に向かう「態度」や「方法」といった、学びへの「レディネス(≒準備)」について、またそもそもワクワクしている/していない「自分」とは一体どういった状態なのかについて知ることで、自分で自分をワクワクさせ続けることができるのかもしれません。
「ありきたりの常識や紋切り型の考えかたにとらわれずに、物事を考えていく方法」(p.27)を「知的複眼思考法」と銘打ち、現象に対して「ほかのありうる状態」を探求するためのヒントを与えてくれる本。特に、「本をどのように読んだらいいか分からない」という方にぜひ読んでもらいたいです。
「文化人類学」という学問分野を視座にして、「あたりまえ」を疑い、「あたりまえ」の外側へ出ていくための考え方へのヒントを与えてくれる本。前述の苅谷著書の「知的複眼思考」を具体的に実践している例、とも言えるかもしれません。各章がそのテーマでの主要な文献を紹介しながら進めてくれるほか、読書案内がまとめられているので、この本を足掛かりに興味のある分野を読み進めてみることをお勧めします。
大学での学び方は高校までのそれと大きく異なる部分があります。大学での学びは(ある意味)学ぶも学ばぬも本人の裁量によるところが大きく、そのギャップにショックを受ける人もいることでしょう。大学に来てもなお(来たからこそ)学びに意欲を持っている人、大学に来てからなんだか勉強に意欲を持てなくなった人、そんな人に読んでもらいたい一冊です。
としちるのおすすめ本

特に現代社会で取り上げられる出来事やそれらに関連する諸問題を、人文学的な観点から議論を投げかけるものを選びました。他の選書に比べればややヘビーな読み物もありますが、だからこそ異なる世界へのまなざしを獲得する「読書の楽しみ」も味わえるものとなっているのではないかと思います。「ちょっと背伸びしたい!」、そんなあなたにおすすめです。
「映像の世紀(20世紀)」から「魔法の世紀(21世紀)」へ、ディスプレイ(二次元)上の表現を彩ってきた情報技術が現実にも飛び出していくことが可能となっていく上での社会文化をメディア史などを踏まえて論じる思想書。今後、実際の歴史がどのように揺れ動いていくか、如何に自身がそれら情報技術が与える社会文化と対峙するか、「魔法の世紀」は裏返せば「奴隷の世紀」でもある、と著者が語る意味とともにに考えるとよい。
これまで哲学が考えてきたことに対する内容はかなり縮小されているものの、新しい哲学の潮流(メディア技術論的転回、実在論的転回、自然主義的転回)を簡易に紹介してくれている。同時に、具体的な現代社会の諸問題(人工知能、遺伝子工学、格差社会、テロ、宗教、環境 etc.)を哲学ではどのように考えているのかをまとめられている。
明治期後半から2000年代にかけて「ボランティア的なもの」に関する人々の語り(ボランティア的なものの実践者、周囲からのまなざし、政策 etc.)の形式(語彙、捉え方)からその変遷と日本の政治的・社会的環境を分析した書籍。重厚な一冊で大学1年生向けではないが(金額も7000円オーバーと高い)、東京オリンピック開催に向けて呼びかけられる「ボランティア」なるものがどのような歴史的変遷の上に起こる出来事なのかを捉えること、また分析と同時に「実践」と呼ばれる営みに付随する「規範」「倫理」「贈与」に関して考えるきっかけとなる。