みなさんこんにちは。東京大学農学部生命化学工学専修3年の茂木と申します。私は今回、僕が感じている網羅的に農学を学ぶ意義について、自身が参加している東京大学大学院農学生命科学研究科の教育プログラム「One Earth Guardians 育成プログラム」での活動を踏まえて述べさせていただきます。
ADVENT CALENDAR 2018―17日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!
まず「One Earth Guardians 育成プログラム」とは自身の専門分野だけでなく、他分野あるいは産官の知識・視点を幅広く携え、他分野の人々を巻き込みながら環境・社会問題を解決していける科学者=“One Earth Guardians”を育成するための東京大学農学部のプログラムです。今年度から学生の募集を開始した新しいプログラムで、月ごとに食・木・生命をテーマに、教授・企業・省庁の方々とディスカッション形式のセミナーを行っている他、夏には学生が各自企業の下で実学研修を行いました。
今自身が農学部で学ぶ中で、他の学問分野と同様農学も細分化が進み、自身の知的好奇心・興味に基づくの狭く深い研究・カリキュラムに偏っていると感じています。それが良いことなのか悪いことなのか僕自身には判断しかねますが、僕自身は「生物について幅広く学び、得た知識を社会に役立てたい」との思いで農学部への進学を決めたので、この現状に非常に困惑しております。地球は、生物と環境あるいは植物・動物・微生物など生物同士の相互作用によって維持している自然と、それに対する経済活動や文化に基づく人為介入が複雑に絡み合って成り立っています。そのため、食料・環境問題を解決するためにはそれらを網羅的に理解している必要があります。それに対して、各分野の専門家が自身の知識を持ち寄り協力すれば良いのではと感じる読者の方もいらっしゃると思います。しかし、僕がお話を聞いた、農業からの温室効果ガス排出量に関して国際的な試算プロジェクトに参加されている研究者の方も、まず互いの研究分野の知識をある程度持ち合わせていなければ話が全くかみ合わないとおっしゃっていました。農学は一次産業、資源、環境、健康など人の暮らし全般に関わっており、食料・環境問題の解決に関してその役割が非常に期待されています。その農学のカリキュラムや研究が細分化され、各研究者の知識・視点に隔たりが生じてしまうことは非常に危ういのではないでしょうか。
そのような現状に対して、食料・環境問題解決のキーマンとなるような地球を俯瞰できる科学者を育成すべく、「One Earth Guardians 育成プログラム」は開始しました。僕自身も「生物について幅広く学び、得た知識を社会に役立てたい」との思いを叶えるべくこのプログラムに参加し、日々非常に充実感を得ています。プログラム修了の認定を受けるには、セミナーや実学研修の参加の他、自身の専門以外の分野の授業を網羅的に履修する必要があり、研究室に配属される来年度以降も個人でバイオマス・水産資源や農業経済学について学習していく予定です。また、夏の実学研修にて、僕はできるだけ自身の専門とは離れた分野に触れようと、岩手の肉牛農家さんのもとで二週間泊まり込みの研修を行ってきました。その研修の過程で自身が専門に学んでいる農芸化学の、微生物学・生化学・食品化学の研究が、子牛の下痢の改善や肉質向上に寄与が大きい非濃厚飼料の開発など、畜産においても活用できる可能性を見つけることができました。分野に捕らわれず幅広く農学について学ぶことは、食料・環境問題の解決だけでなく、自身の専門分野に対しても思わぬ気づき・研究の示唆を得ることができ非常に魅力的なのではないでしょうか。また、課題発見力・解決力を磨くため実学を行うことの重要性が近年叫ばれていますが、それぞれの事象にどういった科学的な要因が絡んでいるのか多角的に理解していることはそれらの力を身に着けるための前提条件であります。
学問が発達し細分化した現代では、一つの分野を極めることに終始しがちですが、食料・環境問題の解決・活発な学問研究を行うためには農学を網羅的に学ぶことは非常に有効であります。そして各分野の専門家の集まる大学は、網羅的に学ぶうえで最適な場所だと思います。この記事を読んだ農学に関わる学生あるいは若手研究者の方々に、少しでも網羅的に農学を学ぶことの意義を感じていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。