こんにちは、筑波大学で生物学を学んでいます、黒川真臣です。私は生物学を研究していて面白いなと感じる瞬間があるんです。それは、この生命現象は他の現象に似ているな、きっと同じような原理が働いているのかな、といったことを考えたりすることです。今回頂いた執筆の機会に、進化に関する仮説を題材にして、私が面白いなと思うことを書かせていただこうと思います。

くろ
ADVENT CALENDAR 2018―19日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!
進化ってどんなもの?
私が研究していることを一言で紹介すると、大腸菌を実験室内で進化させることをやっております。「進化」というと、種を超えることをを連想する場合も多いかもしれませんが、私の研究している進化では環境に適応して自分自身が変化していくようなことを意味しています。このような、徐々に変化して生じる進化は生物に限らず、言葉や文化が徐々に変化していく様子の中にも見られるように思います。
赤の女王仮説
進化に関する学説に「赤の女王仮説(Red Queen’s hypothesis)」というものがあります。生物学者のLeigh Van Valen(1973)は、現在栄えていようがそうでなかろうが、どんな生物種も等しく絶滅の可能性がある、つまり種の存続においても常に進化をし続ける必要があることを数理的に証明しました。
なぜ赤の女王?
赤の女王とは、ルイス・キャロルの小説「鏡の国のアリス」に登場するキャラクターのことです。仮説の名前は、物語中に出てくる「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない(It takes all the running you can do, to keep in the same place.)」という赤の女王のセリフに由来しています。
生物社会と人間社会の対比
今回テーマに上げました赤の女王仮説の理論は、平家物語の冒頭に出てくる「諸行無常」と「盛者必衰」という言葉にも通ずる部分があるように思えます。平家物語は、平家の栄華と没落を描いた軍記物語でありますが、人間社会における勢力争いは生物社会におけるそれとやはり同じような原理が働いているのではないかと考えさせられます。
現代社会に当てはめて考えてみても、生物社会において、変動する環境の中では進化していかないと生存し続けられないということは、資本主義社会における企業が、変化する社会のニーズや他社との関係を受けて、事業を変化させていかないと生き残れないということと近いものがあるのではないでしょうか[Indrė Žliobaitė, 2017]。
小さな組織から大きな組織まで共存している構造は、数千個の遺伝子を持った微生物から、数万個の遺伝子を持った人間、大小さまざまな規模の生物が共存している自然界の構造とよく似ているように思えます。人間が文明の発展の末に築いてきたと考えている現代社会の進化は、実は38億年前から脈々と続いてきたと言われる生命の進化と根本的な仕組みは案外変わっていないのかもしれません。
参考文献
Leigh Van Valen (1973). A new evolutionary law. Evolutionary Theory, 1:1-30.
Indrė Žliobaitė (2017).Reconciling taxon senescence with the Red Queen’s hypothesis. Nature volume 552, pages 92–95