地域と交わり、新たな教育の場を作る―長野県小布施町の取り組み

はじめまして。信州大学大学院教育学研究科修士課程2年の平岡駿(ひらおかしゅん)と申します。専門は技術科教育でプログラミング教育やICT活用教育を研究しています。副専攻というか、研究の上で必要だったり、自分の行ってきた課外活動の関係で、教育工学やクリエイティブラーニングなどを専門だということもあります。

現在は大学院を休学し、小布施町にある「一般社団法人小布施まちイノベーションHUB」という一般社団法人で、小布施町に関わる様々な活動をしています。色んな人から「何をしているの?」だとか「なぜそんなことをしているの?」というご質問をよく受けるので、その経緯やこれから行っていきたいことをご紹介したいと思います。

平岡駿

学習の動機づけのために選んだ「教育」という分野の奥深さや困難さ,その中にある人間らしさに魅了され気付いたら大学院に入院していました。専門分野は技術科教育/教育工学ですが,教育社会学や教育哲学,比較教育,教育史なども非常に興味があります。FabLabNaganoで学生ディレクターも務めています。

ADVENT CALENDAR 2018―20日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!

なぜ休学したのか?

まず一つ目は大学の中に居続けることに違和感を感じていたこと。大学に入学して今年で6年目。大学にいること自体に慣れてしまい、不自由なことは少なかったように感じます。単位もなんとなく取れてしまうし、諸活動もルーティーンになってきているものも多くなってきたけれど、それゆえに自分の中に「このままでいいのか」という疑問が生まれてきました。このぬるま湯につかったままなのが、非常に楽なものの自分が成長するため、学ぶためにそれで本当によいのかと思い始めていました。

そして二つ目が、興味のある事業に誘ってもらえたということ。4月にFabLabNaganoの学生ディレクターとして参加した『信州のプログラミング教育を牽引する「デザインフェロー養成プログラム」』で偶然お会いした方に誘われる形で、小布施町での研修デザインや教育関係のことをしてみないかとお誘いいただけました。研修設計などは立教大学の中原淳教授が有名ですが、実は学問分野としては教育工学の範囲に入ってきます。ど真ん中の専門ではないものの基礎知識面では、自分の中にある専門性も活かせそうだと感じました。またこのやってみたい事業が、国からの委託事業であり、本年度いっぱいで終わるため、単純に考えれば半期だけ休学すればこの事業に専念できるということも自分にとって魅力的でした。こういった経緯で休学が合理的な選択になったのですることにしました。

小布施町ってどんなまち?

長野県の北部にある町です。人口は約1万1千人。面積は19.12㎢。この数字がどの程度かなかなか分かりにくいかと思いますが、町の端から端まで歩いて約5㎞、徒歩で約1時間ちょっとで歩けてしまいます。それが四方に囲まれた長野県で一番面積の小さい町です。栗などを中心とした果樹で農業の町として興り、北信随一の市場の大きさで賑わいを見せた商業の町であり、観光と交流を目指し官民一体となって作り上げてきたまちづくりの町でもあります。

また葛飾北斎に代表されるような文人も盛んに訪れていた土地であり、文化広まりました。特に葛飾北斎に関しては、現存する多くの作品群が版画であるにも関わらず、小布施町には晩年の貴重な肉筆画が残っており北斎研究の中でも貴重な資料として残っています。

まちづくりに早くから取り組み40年もの歴史を積み重ねてきました。その成果も町並み修景事業などの成果として残っており、全国的にもまちづくりの先進地として非常に有名です。

近年は小布施町でスラックラインの世界大会やHLAB OBUSEなど、様々なところで国際的な活動にも取り組んでいます。(この話だけでも1記事位かけてしまうのですが、それは自分自身で調べて理解が及んだ時に書かせてもらえればと思います。)

小布施町で何をしているのか?

仕事というと一口には言えないようないろいろなことをしています。大きく二つに分けると「町に関わること」と「教育に関わること」の2種類に分けられます。

町に関わること

「町に関わること」は、本当に多岐にわたります。行政などと相談を重ねながら町のインフラなどに関することから、企業や大学と連携しながらオープンイノベーションを促進したりと職業としては分類しにくいところであるのかなと感じます。(一応コーディネーターに近い仕事でしょうか。)時々自分は何屋さんなんだろう?と感じることも多々あります(笑)これらの業務を進める上では、今まで学んだことのない学問・分野に関することも多く、自分の今の力では何もできないようなこともあり、悔しい思いをすることもありますが、小布施町に関わってくださる全国で活躍されている皆さんとの仕事は刺激的で自身の学びになることも多いです。

大学が良い悪いの議論ではありませんが、これは大学の中だけではなかなか体験しにくいところでもあるのかなと感じます。実際にその地域に住んでいる人たちやそこで働いている人たちの困っていることを整理して、問いに変え「一緒に」試しながら、違和感なくよりよい方向になる道を模索する仕事ともいえます。簡単な仕事ではないですが、実際に「人」の顔が見える距離感で仕事ができるというのは自分のモチベーションや仕事を進めていく上でも合っている気がしています。

教育に関わること

もう一つの「教育に関わること」では、先に話した研修設計はもちろんのこと、食育、プログラミング教育、不登校支援、高等教育や県内外の大学生の受け入れなど色々な町の教育課題を聞きとりながらそれぞれへのアプローチを考えつつ、今はそれらを集約するハブのような「教育拠点」を作ろうとしています。町の中の様々な教育コンテンツを整えた拠点に様々な人がいながら、様々な子どもたちと交流を通して、個人の学びを深めていくことを目的とした新たな場づくりを進めています。

教育課題といっても本当に多様です。小布施町という町は、人口が1万人ほどの町です。小学校が一つと中学校が一つ。高校はありません。そういった中で地域に根差した魅力的な教育を行っていますが、教員の労働問題や道徳や外国語の教科化、プログラミング教育の必修化、不登校などまちづくりに先進的で非常に進んだ町のようにも思えますが、抱えている問題は、他の自治体と似ている点も多いです。それらを全て都合よく解決できるとは思いませんが、新たな教育の形を実現することでもしかしたら活路を見出せるのかも知れないと強く感じています。これが何年後に実現するのか分かりませんが、少しずつ町の人と対話をし、よりよい方向へ進めていければと思っています。

実現したいことは?

自分が今最も実現したい事は、上記で述べた「小布施町教育拠点」を設立することです。自分はこの教育拠点は今までの学校の制度内には収まらずに、様々な教育機会を提供できる場にしたいし、できると思っています。クリエイティブラーニングやICTを用いた個別学習や国際教育、リベラルアーツ、PBLなど教科の枠組みに大きくとらわれないことでより自己の学びに対して自覚的になり、多様な学びを進めることができるのではないかと考えています。

このように考えながらも今の学校教育が悪いわけではないと考えています。自分の専門は義務教育でもあり、それについて学んできた自負もありますので、そこの中で大きな間違いがあるという解釈はあまりしていないです。ただそうは言っても制度としては、やはり万人を救うものにはなりえないのだとも感じています。子どもたちがもっと好きなことを学び、もっと好きなように活動をし、もっと勉強を好きになってもらいたい。それが私の持つ願いです。私自身大学になって初めて勉強が好きだと思えるようになりました。それを高校生や中学生に伝えるとなかなか訝しがられますが(笑)本来の学びとはこうあるべきではないかと私は思います。

もっと「面白く」。そうやって子どもたちが学べる日本を長野県の小さな町で始められるようにしていきたい。そんな想いで今日も小布施に関わり、自分の学びを深めていきます。

Writer

学習の動機づけのために選んだ「教育」という分野の奥深さや困難さ,その中にある人間らしさに魅了され気付いたら大学院に入院していました。専門分野は技術科教育/教育工学ですが,教育社会学や教育哲学,比較教育,教育史なども非常に興味があります。FabLabNaganoで学生ディレクターも務めています。