「みんな」で考える「まちづくり」〜「まちづくりから考える《つくば》のこれからと人文社会科学」イベントレポ〜

「『つくば市』ってひらがな?」

3年前、私がつくば市に引っ越してきて最初に思ったことがこれだった。もともとつくば市からそう遠くない地に住んでいたので、「筑波」という漢字にも見覚えがあったのだ。

そのひらがなの「つくば」と漢字の「筑波」に含まれたニュアンスを知るきっかけとなったのが早川公さんの『まちづくりのエスノグラフィ』であった。「エスノグラフィ」とは日本語で「民族誌」、「特定の民族の社会と文化をフィールドワークをふまえて記述したもの」1スーパー大辞林参照。早川さんは筑波山麓地域の北条という街へ赴き、研究してきたそう。

2月5日、まさにこの本の舞台である茨城県つくば市のup Tsukubaにて出版記念イベント「まちづくりから考える《つくば》のこれからと人文社会科学」が開催された。この記事では、まちづくりに興味を持つ理系学生が、イベントを通して感じたことを中心にまとめたい。 

ゆーみるしー

総合研究大学院大学素粒子物理学専攻。研究学園都市で素粒子の研究をしつつ広報に首を突っ込んでいる大学院生(D1)。難しい素粒子物理を楽しく面白おかしく伝えたい。写真とマラソンが趣味。お酒と猫が好き。

バリバリの理系が「まちづくり」に興味を持ったわけ

まず、「素粒子物理」を研究する理系の私が「なぜまちづくりのイベントに参加したか」をお話ししておく。私の研究内容は加速器という、実験に必要な機械だ。「国際リニアコライダー(International Linear Collider : 以下ILC)」という、新しい加速器を作ろうとしている。

私の研究については以下を参照されたい。

加速器は巨大で全長20kmにも及ぶ。その建設候補地は日本の岩手県一関市周辺だ。ILCが建設されるとしたら、その周辺地域の方々にも少なからず影響がある。私は加速器という特殊な実験施設が地域に与える影響を考える必要があると考えた。

もちろん、経済効果などは専門家が試算している。しかし、これまで人々の営みが積み上げられた地に移り住んでくる科学者は、いわば異物なわけである。科学の拠点が新しい地に「移り住む」側として何かできることはないのだろうか。そんな特殊な研究内容との接点から私はまちづくりに興味があった。特殊なイベントへの参加動機だろうと思う。

2人の専門家が織りなす対談

イベントは筆者である公さんがまず著書の概要をお話し、その後つくば市長五十嵐立青さんと対談する、という流れであった。著書の概要はShare Studyの連載を参照されたい。

連載「まちづくりのエスノグラフィ」―記事まとめと編集後記

2019-02-03

つくば市に移り住み3年目にして初めて市長にお目にかかった。五十嵐市長は国際政治経済学で博士号を取得しており、早川さんの筑波大学の先輩にあたるという。お互いを「公ちゃん」「立青さん」と呼び合う二人の、終始和やかな雰囲気に呑まれた。

こういった対談では、いわゆる「素人」が専門家に質問をする、という形式が一般的なのではないかと思う。しかし、このイベントは違った。登壇者はもとより、対談者も専門家なのだ。早川さんは「人類学的」なまちづくりの「研究」と「実践」を行なっている研究者。五十嵐市長も「政治学的」なまちづくりについて過去には研究、現在は実践をしている。そんな2人の専門家が織りなす対談は今までにない不思議な雰囲気が感じ取れた。

市長からも専門用語が飛び交う。

「holistic」

それが今回一番印象に残った言葉である。

「関係性」がこれからの社会の「豊かさ」

早川さんの記事、「まちづくりと人類学―文化現象・社会的行為としてのまちづくり」では、まちづくりの人類学的なアプローチとは、「『まちづくり』を社会と個人の相互作用による総体的(holistic)なものとして理解することを試み」ることである、と述べている。つまり、まちづくりを人と人との関係から捉える、ということであろう。

そんな人類学的なアプローチの基本はフィールドワークだ。早川さんは北条地区に足繁く通い、そこに住む人々の声を聴いてきた。その会話を通じて、人々が何かに気づく瞬間を捉える、それがエスノグラフィだという。

「まちづくりのエスノグラフィ」の中では北条地区の住民との対話で得られた、彼らの北条に対する認識が描かれている。かつて栄えた商店街の商店主は、かつての売り上げで生活がまかなえているという。過去の商店街は経済的な「豊かさ」であふれていたに違いない。

一方で五十嵐市長からはこんな発言があった。

豊かさの概念を変えていかなければいけない。これまでは資本の所有と消費が豊かさだったけれども、もう違うよねっていうのはみんな気づいてる。「関係性」がこれからの豊かさになる。

この「関係性」というのは大きなキーワードになりうる。

「みんな」でまちづくりを考える

五十嵐市長は、イベントの冒頭で、「つくば(まちづくり)のこれからをみなさんと話したくて今日は来ました。」と語った。五十嵐市長は、つくばの周辺市街地の合同勉強会をおこなっているという。つくば市はいくつかの村・街が合併をしてできた。そのような経緯が背景にあり、かつては村の中心であった地域が周辺になったのだ。

「いい悪いではなく、そうなった。問題は行政が何もしなかったことだ。」

そう市長は語る。そういった経緯から現在合同勉強会が開かれている。

「こうしなさいとは言わない。ここの魅力はなんですか、昔はどうだったんですか、と、対話しながらみんなでまちづくりを考えるようにしている。」

地域で一番大切なのは地域の関係性を考えることだ、と五十嵐市長は言う。この「関係性」には人と人の関係性、人と地域の関係性、地域と地域の関係性、さまざまな要素が含まれている。

「研究者だけが「まちづくり」をするわけではない、みんながフィールドワーカーなんだ。」

早川さんはそう訴える。地域の関係性は、そこに住む一人一人が認識できるものであるし、捉え直したり、結び直したりできるものだと思う。その方法の一つがエスノグラフィであり、その方法を教えてくれるものが人文社会科学である。

「まちづくりをみんなで一緒にやる」

漠然とそう言われることがあるが、その本質の一端がこのイベントでわかったような気がする。まずは自分から。つくばと私、将来的にはILCの建設候補地である一関と私の関係性を考えていけたらと思う。

Footnotes   [ + ]

1. スーパー大辞林参照

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Writer

総合研究大学院大学素粒子物理学専攻。研究学園都市で素粒子の研究をしつつ広報に首を突っ込んでいる大学院生(D1)。難しい素粒子物理を楽しく面白おかしく伝えたい。写真とマラソンが趣味。お酒と猫が好き。