「5%」。
これは、宇宙のうち人類が今わかっていることの割合です。つまり、宇宙には95%も謎が残されているということなんです。その宇宙の謎を調べる方法は色々ありますが、私が注目しているのは「宇宙で一番小さい粒:素粒子」。宇宙の謎に迫るにはこの素粒子を精度よく観測する必要があります。なぜ素粒子で宇宙のことがわかるのか?最新の実験から、この世で一番小さい素粒子とこの世で一番大きい宇宙の深淵な関係をのぞいてみましょう。
ADVENT CALENDAR 2018―1日の投稿

宇宙の謎のうちの23%~ダークマター

上のグラフは、宇宙に存在するモノの割合を表しています。今私たちがわかっている「物質」はこのうちの5%しかないのです。残りはダークマターとダークエネルギーと呼ばれる未知の物質とエネルギーです。このうち、ダークマターの候補はまだ見つかっていない素粒子ではないかとも言われているのです。
素粒子とは、この世の全てのものを作る素となる粒子のことです。その大きさは1京分の1cm以下。あまり大きさがイメージできないかもしれませんが、原子の大きさを山手線くらいだとすると素粒子はその中に落ちている米粒くらいの大きさです1問1:もっといい素粒子の大きさの例を考えよ。ただし素粒子の大きさは10^−16以下とする。。
宇宙の謎を解き明かす加速器実験
それではそのダークマター候補の素粒子をどのように調べるのでしょうか。素粒子実験の一つに「加速器」を使った実験があります。加速器とは素粒子などを加速させ、衝突させる装置です。素粒子が衝突すると何が起こるのかというと、宇宙初期の様子を再現することができるのです。もちろんビッグバンをもう一度起こせるわけではありませんが、過去の熱かった宇宙の状態を一瞬作り出すことができます。つまり、加速器は宇宙のはじまりの頃を見ることができる、タイムマシンと言えるでしょう。
そんな加速器実験のうちの一つが「国際リニアコライダー」(以下ILC)実験です。ILCは現在建設が検討中で実験は始まっていません。建設が決まれば実験結果が出るのは数十年後でしょう。しかし、ILCで得られる結果は大きく期待されています。その期待されている結果の一つがダークマター発見です。
国際リニアコライダーで探るダークマター
それではILCでどのようにダークマターを探すのか説明しましょう。そのために、まず加速器の中でどのような反応が起こっているか確認します。
ILCは電子と、その反粒子(反対の電荷を持つ粒子)である陽電子をぶつけます。そして、一度エネルギーのかたまりになったあと、別の素粒子に崩壊します。さらにその素粒子がまた別の素粒子に崩壊します。最終的に観測できるのは、最後に崩壊した後の粒子です。(図ではbとμ粒子)この粒子たちを再構成して、最初にできた粒子(図ではヒッグス粒子と、Z粒子)が何かを求めます。

©︎Higgs Tan(http://higgstan.com)
ここでポイントとなるのが、ILCが「直線」で「素粒子同士」の加速器である、という点です。この特徴により、ぶつかる前の電子と陽電子の状態が正確にわかります2問2:素粒子物理学における「状態」とは何と何で決まるか答えよ。3問3:直線でない加速器だと何が原因で状態が保存しないのか答えよ。。ぶつかる前の状態が正確にわかっていると何が嬉しいかというと、ぶつかって出てきた2つの粒子のうち、片方だけを観測できれば、もう一方は観測できなくても計算によってどの粒子が出てきたかがわかるのです。図で言えば、Z粒子だけ再構成すれば、ヒッグス粒子が何に崩壊しようとも、ヒッグス粒子ができていた、とわかるのです。

©︎Higgs Tan(http://higgstan.com)
この「ヒッグス粒子が何に崩壊しようとも、ヒッグス粒子ができていた、とわかる」ということが、ダークマターを探すことにつながります。例えば、ヒッグス粒子がダークマターに崩壊していたとき。ダークマターはILCの測定器では捉えられないかもしれません。けれども、上の方法を使って、Z粒子だけでも正確に測定できていれば、ヒッグス粒子も一緒にできていて、それが測定器で捉えられない、何か未知の粒子に崩壊したという証拠になるのです。
タイムマシンからわかる未来は…?
このように、素粒子を調べれば、もしかしたら宇宙のさらに23%のダークマターことがわかるかもしれません。それがわかった未来では、私たちの宇宙の捉え方はどのように変わるのでしょうか。加速器というタイムマシンが見せてくれる未来に期待しましょう。