学費返還運動の雑感

小林耕野

日本酒を飲むのが心から大好きです。高知県・土佐の日本酒は辛口でとてもおいしいので是非皆さん一度飲んでください。専門は土壌科学ですが、哲学から生物学まで幅広い事に興味を持っています。どうぞ皆さんよろしくお願いします。

ADVENT CALENDAR 2020―6日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!

2020年の3月の末、僕はつくばへ引っ越す予定だったが、2か月間ほど神奈川の実家に滞在することになった。4年間の学部時代を過ごした高知を離れて、進学先である筑波大学の寮に引っ越す予定だったのだが、新型コロナウイルスの影響で入居が延期になったのだ。引っ越しの前々日に、筑波大学の学生宿舎から入居をやむをえない理由がない限り、延期するような通知が届いた。それまで高知にいたので、新型コロナウイルスの感染者が増えているというニュースは他人事のように感じていたのだが、急に自分事になり面食らったのを覚えている。母親から高知でマスクを買ってきてといわれていたのだが、そんな大ごとになっているのと半信半疑だったが、実際に実家に帰るとマスクが売り切れていたのに驚いた。政府からの緊急事態宣言が発令されたので、外に出歩くこともできなくなった。僕の大学院での研究活動は、実家の畳部屋で始まった。幸い、僕の研究は夏にならないとサンプルを採取できないため、この時点では問題はなかった。筑波大学は学内Lanに接続していなくても、論文をインストールできたので助かった。掃除などの身の回りのことをやらなくても済むので、論文を読むのははかどったぐらいだ。しかし、不安はなかったわけではない。オンラインのゼミは、ラボのメンバーはほとんど知らないので質問はしづらかった。また、コロナの感染者数が増えて緊急事態宣言が続いたら、自分の調査ができなくなるのではないかという不安はあった。一時期は、調査ができなくなったら休学をしてもいいかなと考えていた。とにかく、不安をかき消すように、論文を読んで、実行できるかわからない研究計画を作成していた。

さて、話は急に変わるが僕はいわゆるツイ廃と呼ばれる類に人間である。つぶやくことはあまりしないが、Twitterは暇さえあれば開いている (本当のツイ廃の人に怒られそうだが)。4月の下旬にTwitterでは学費返還運動が起こっていた。正確には4月の頭くらいから起こっていたのだと思うが、僕の目に入ったのは4月の下旬ごろであった。学費の返還運動が起こった大学は全国各地にわたる。学費の返還を求めるサイトを見たところ、その根拠としては次の3個があげられた。

  1. コロナウイルスによる経済的な打撃を受けた学生への支援
  2. 緊急事態宣言での大学の施設が使えないため
  3. 対面授業と比較してオンライン授業の質が良くないため

おそらく、この辺りはもっと上手にまとまったサイトがあるので、そちらを参照していただきたい。僕は大学院の一年生であり、比較的にコロナの感染者数が落ち着いている筑波大学に所属している。そのため、ある程度のポジショントークは避けられないが、この学費返還の件について個人的に思うところを書きたいと思う。端的に言うと、僕は大学への学費返還運動には批判的である。1のコロナウイルスによる経済的な打撃を受けた学生への支援、これに関しては学費の返還とは別の形で行われるべきだと思う。経済的な打撃受けているために学費を返還してほしい、ではなく経済的な支援を別のスキームで要求するべきだと思う。2、緊急事態宣言での大学の施設が使えないため、この費用は大学の施設を維持するために払うもので、直接的な使用料ではないと思う。そして、施設は毎年に学生が払ってきて維持されてきたものだ。もしこの費用を返還して、これから対面授業が再開されるにあたって、大学の施設がなくなっていたら困るのは私たち学生自身である。3、対面授業と比較してオンライン授業の質が良くないため。これに対しては、本当に対面授業と比較してオンライン授業の質が良くないのか、まず求めるべきはオンライン授業の質の向上ではないか、と考える。また、課題の量が多いため大変という声もあったが、これも学費の返還ではなく授業の改善を希望するのが筋だと考える。

以上、学費返還運動に対して批判的な意見を書いてきた。もちろん、今年入学した1年生の苦労は計り知れないと思うし、学費を返してくれと思う気持ちもわかる。そして、意見は異なるが、このような活動を行っている方を尊敬している。少なくとも、こんなところでグダグダと、くだを巻いている僕よりかは立派だろう。僕は決して大学生への支援がいらないということを言っているわけではない。大学に対して、上に述べた論理で学費の返還を求めるのは筋が違うのではないかと考えている。最初に、大学へ学費の返還を求めるより先に、政府に対して大学へ金銭的な支援を求めるべきと思う。このような観点から、僕は『国による一律学費半額と、大学などへの予算措置を求める』署名には賛同した1change.org「国による一律学費半減と、大学への予算措置を求めます。」
【2020年11月4日確認】
。文部科学省の学びの継続のための学生支援緊急給付金では支援対象が狭すぎるし、予算も足りない。とにかく予算がなければ何もできないのだ。そして、個人的な意見としては授業料免除などの既存の仕組みでできるような支援が行わればよいと考えている。また、休学などの選択肢も柔軟にとれるような仕組みを行われて欲しかった。まとめると、大学へは学費の返還を求めるのではなく別の支援の形を求めるべきだった。そして、国からの予算措置をより強く求めていくべきだったと考える。

これに関連して、一つ興味深い現象があった。Twitterで#大学生の日常も大事だ、というハッシュタグをトレンド入りさせようという呼びかけがあった。その中の注意事項の一つに『政府についてのツイートはNG』というものがあった。この運動が世間に大学生の現状を知ってもらい、共感を得ることが目的のためだそうだ。確か近年の政治状況を見ると、大学生の問題が政治的な左右対立に消費されて、忘れ去られる可能性もあることも理解できる。しかし、私はこのNGに違和感を感じた。なぜなら、政治的な運動であるし、政府への財政支援がない限り、大学生を取り巻く状況は改善しないからである。

大学生はコロナで影響を受けて、多くの苦しんでいる人がいる。しかし、僕が触れてきた学費返還運動は広がりをかけているように思える。具体的には、Twitterをやっていない人の間で話題に述ぼるほどには話題になっていない。これはなぜなのだろうか?Twitterの限界だろうか、運動の組織化がなされていなかったからだろうか、若者の政治離れと関係あるのだろうか、教育の影響なのだろうか。コロナ後の検討課題が残っている。

Writer