人々の意識や好みを数字で表してみる! Best-Worst Scalingを例として

筑波大学大学院生物資源科学学位プログラム博士前期課程1年のそうまです。現在、農学部に相当する場所で、農業経済学、とりわけ消費者評価や選好についての勉強をしています。今回は、僕が研究で適用している方法論の紹介を通して、みなさんに興味を持ってもらい、ご自身の研究にも適用できそうだなと思ってもらえたら幸いです。

そうま

1994年6月生まれ。公務員を休職し、筑波大学理工情報生命学術院生物資源科学学位プログラムに在籍中。いわゆる農学部に相当する場所で、主に食料を対象に経済学的な視点から研究を行っています。食べることが好きです。

ADVENT CALENDAR 2020―18日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!

農業経済学への興味と大学院入学 

農業経済学を勉強するようになったきっかけとしては、学部生時代にマレーシアのペナン島に少しだけ留学した際、「フードパラダイス」と呼ばれるペナン島の美味しいご飯を味わい、見事に7kgくらい太ってしまい、食べることが好きになったことにあると思います。その後は、どこに旅行いくにしても、現地の美味しいご飯食べること中心に考える人間になってしまいました。

実は、今年の4月まで働いておりました(本当は3月までのはずがコロナのせいで)が、学部生時代に中途半端に卒論を書いてしまったばかりに、自分の興味(食料関連の分析)と合わせてより深く経済学的な視点から勉強してみたいと思い、大学院の入学を決意しました。

しかしながら、入学のタイミングが運悪くコロナの流行と一致してしまい、授業のはじまりも遅れ、現地調査にも行けず、研究が思うように進まない、少しもやもやする年になってしまったと感じています。そんな中でも、勉強していくにつれて、面白いと思える研究方法や働いていてはわからなかったような気付きに出会えていることを実感しながら、研究生活を楽しめている側面もあります。今回は、その気付きの1つである様々な分野で応用したら面白そうな分析方法を紹介したいと思います。

Best-Worst Scalingとは?

突然ですが、みなさんがスーパーやカフェにいる状況を想像してみてください。例えば、スーパーで果物を買う、カフェでコーヒーを買う、そんな時にみなさんは何を基準に買う商品を決めているでしょうか。見た目でしょうか、味でしょうか。コーヒーだったら、ブラックは苦いから嫌だとか、○○フラッペチーノは甘すぎるから嫌だとか個々人で基準がありますよね。

商品のどのような側面にみなさんは魅力を感じていますでしょうか。そんな疑問を持った時に便利な分析方法が、僕の研究室で流行りつつあるBest-Worst Scaling(ベストワーストスケーリング)という手法になります!

ここで「経済学の手法だから、どうせ数学的記述が必要でしょ?」と思った方、少々お待ちください!この方法であれば、統計学で扱うような数学は基本的な部分では必要ないですし、何といっても様々な分野に応用が期待できる分析手法になります。

人々の意識や好みを数字で捉えることがそんなに難しいことでないこと、みなさんの研究でも適用できるかもしれないという気持ちを持ってもらえたら、嬉しいです。

Best-Worst Scaling(BWS)は、主にアンケート調査で使用され、各質問に対して、回答者に最も重視すること(Best)と最も重視しないこと(Worst)を1つずつ選んでもらう手法です。

具体的には、いくつかの選択肢を用意して、選択肢全体の部分集合を1つの質問として作成し、回答者に最も重視すること(Best)と最も重視しないこと(Worst)を1つずつ選んでもらい、同様に作成した質問を何回か答えてもらうという手順で行われます。

実際には、BWSは、Case1(Object case)、Case2(Profile case)、Case3(Multi-profile case)という3つの種類がありますが、興味がある方は、Louviere et al (2015)を読んでいただくと分かりやすいと思います。今回は、簡便化のために、Case1(Object case)について具体例を紹介します。

食料消費分析の話であれば、先ほどのようにある人が果物を買う時に何を好んでいるのかを調査したいという状況で考えてみます。設定する主な選択肢は、価格の手頃さや新鮮さ、原産地、特定のブランド、味など様々なものが考えられます。BWSでは、このような選択肢に設定した項目を相対評価することが可能です。

下のQ1とQ2と書いてあるものは、回答者に提示される質問例です。回答者は項目の中から最も重視するもの(Best)と最も重視しないもの(Worst)にチェックするだけです。

Q1

 Best 項目      Worst

 [ ]  価格の手頃さ   [ ] 

 [ ]  新鮮さ         [ ] 

 [ ]  ブランド      [ ] 

 [ ]  味              [ ]  

Q2

 Best 項目      Worst

 [ ]  価格の手頃さ   [ ] 

 [ ]  原産地      [ ] 

 [ ]  ブランド      [ ] 

 [ ]  味         [ ]

※上記の質問は、R(統計ソフト)によって筆者作成。
選択肢(項目)は、価格の手頃さ、新鮮さ、原産地、ブランド、味の5つで設定。
選択肢(項目)のそれぞれが、5回の質問の間に4回ずつ登場するように設計しています。(BIBDという手法)

結果は、Bestに選ばれた回数の合計からWorstに選ばれた回数の合計を引くこと(Best minus Worst score)で得られますので、下記のグラフのように重要視されている順序を分かりやすく表せます!


※筆者作成。数値に根拠はありません。

この例では、果物を買う時に一番重要視されているのは価格の手頃さであることがわかります。一方で、最も重要視されていないのは、ブランドであることがわかります。足し算と引き算するだけで結果が出るという単純明快なものになります。

また、BWS のメリットとしては、従来の方法に比べて、回答者の負担が少ないことをあげることができますし、よくある普通のアンケートでみられるような1から5でお答えるもの(Likert Scale)や順位付けを行う質問などの評価方法の弱点(選択肢間の差がつかない、尺度の間隔が均等ではないかもしれないなど)も克服している方法になります。とても便利な方法で近年では、医療経済学や農業経済学を中心に適用事例が増えている手法です。また、集計方法も統計学的な方法を扱わなくても結果を解釈できます。

医療経済学であれば、患者さんが病院に行く際に重要視していることを明らかにすることや日常生活の中でどのような生活習慣を重要視しているかなどに応用可能です。また、観光分野で考えれば、観光地を訪れる観光客が重要視していることや地域住民の住環境の評価などにも適用できると思います。様々な分野に当てはめることができる汎用性が高い分析方法で、さらに集計結果も簡単に表せるということが分かると思います。

また、踏み込んだ分析をしたいという場合には、離散選択モデルを使った計量経済学的な分析や多変量解析の方法を使った分析も可能です。

具体的に扱ってみたいという方は、北海道大学の合崎先生が、合崎 (2017)でRを使ってBWScase1を具体的に実装する手順について丁寧に解説して下さっていますので、参考になると思います。

いかがでしたでしょうか。BWSを通して、意外と簡単に人々の意識とか好みについて、分かりやすい結果が得られるかもしれないということを分かってもらえたでしょうか。

しかしながら、あくまで設定した項目内での相対評価の方法でしかないことを念頭に置くことは必要かと思いますので、ご留意ください。

最後に

最後に、農学は人々の生活にどうしても必要な食にアプローチできる学問であることも魅力だと思っています。身近な先輩などは、農村などに現地調査に向かう時は、日本の原風景に出会える喜びを感じるとも仰ってました。

あとは、人と美味しいご飯を食べる時の喜びは大きいですよね。

おわりに、皆様の楽しいクリスマスを祈っております。

参考文献

Louviere, J. J., Flynn, T. N., and Marley, A. A. J. (2015) Best-Worst Scaling: Theory, Methods and Applications. Cambridge University Press.

合崎英男 (2017) Rを利用したCase1 Best-Worst Scalingの実施手順, 北海道大学農經論叢 71, pp.59-71.

Writer

1994年6月生まれ。公務員を休職し、筑波大学理工情報生命学術院生物資源科学学位プログラムに在籍中。いわゆる農学部に相当する場所で、主に食料を対象に経済学的な視点から研究を行っています。食べることが好きです。