「ゆらぎ」と文学研究

りりすん

ロシア文学と日本文学をこよなく愛する精神的貴族な人。

ADVENT CALENDAR 2019―20日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!

「ゆらぎ」というお題で文章を書くぞ、と意気込んで机に向かってみたものの、一体全体何を書けばいいのやら。文学に関係することを書いた方がいいのかな、文学を研究しているわけだし、とか色々考えているうちに、窓の外は暗くなり、冬らしい冴えわたるような夜空に星が輝いているではありませんか。私はそれを見ると、なんとなく、うきうきした気持ちになって、夜の散歩に出かけたのです。

思考や作業が行き詰った時には散歩をするのが一番です。それがピリリと脳を引き締めてくれるような寒い冬の夜であれば尚良く、コーヒーが片手に納まっていれば文句のつけようもありません。私はもう何百回も歩いたであろう馴染の道を鼻歌交じりに歩き始めます。

しかし、何かが違うのです。見慣れた風景、歩き慣れた歩道のはずなのに、何かがおかしい。まるで、昨日までの世界と同じ景色の、全く別の空間に迷い込んでしまったような気分です。

皆さんは、「デジャヴュ」という言葉をご存じだと思います。初めて来た場所にもかかわらず、既に来たことがあるように感じる。初めて読んだ文章にもかかわらず、既に読んだように感じる、というあれです。では、その逆はどうでしょうか。つまり、夜の散歩中の私が感じている感覚、よく見知った風景を見ているにもかかわらず、それを馴染のない風景のように感じてしまう感覚です。これには「ジャメヴュ」という名前が一応ついているようです。

さて、文学研究で研究対象となる文学テキストは「ジャメヴュ」的であると私は考えています。「ジャメヴュ的」という言葉は、ここでは「固定的だと思われていたもの」を「ゆらがせる」くらいのざっくりした意味で捉えてもらいたいと思います。一例を挙げてみましょう。文学の効果として、ロシアフォルマリズムの研究者達が提示した概念に「異化」というものがあります。これは、文学作品は、さらに適切に言うならば文学で使用される言語は、「見慣れた世界をまるで初めて目にするものであるかのように読者の目の前に提示すること、そして世界を見直す機会を作り出すこと」(ピーター・バリー著高橋和久監訳『文学理論講義』、ミネルヴァ書房、2014年、189頁。)という効果を生み出しているというものです。読書行為を通して、私達の認識は「ゆらぎ」ます。確固たるゆるぎない現実世界という幻想は文学作品の言葉によって解体され、新しい世界の様相が私たちの目の前に立ち現われてくるのです。

一方で、文学テキスト自体も「ゆらぎ」にさらされています。なぜならテキストの解釈は読者が持つ文化社会的な価値観に左右されるものだからです。現行の文学研究で前提となるのは、文学テキストには、固定された「正しい」唯一の意味は存在しないという認識です。例えば、小学校の道徳の時間を思い出して欲しいのですが、道徳の教科書におけるテキストには読み取らなければならない唯一の「教訓」というものが存在していたはずです。しかし文学テキストにはそのようなものは存在しません。文学テキストは読者の読むという行為を通して、その意味が再構築されていく、可変的なものであるのです。

さて、上述したことをまとめると、文学テキストと読者は相互に「ゆらぎ」、「ゆらがせ」る関係にあるということになります。文学研究が、この文学テキストを研究対象とするならば、文学研究は「ゆらぎ」のダイナミズムを紐解いていく学問と言う事も出来るでしょう。

随分と遠いところまで散歩してきてしまいましたが、素敵な文章がまとまったように思います。皆さん、また機会があれば、私の夜の散歩の思考に付き合って下さると幸いです。

ADVENT CALENDAR 2019
テーマ:日常の視点が思わずゆらぐ学習・活動秘話

勉強であれ、研究であれ、仕事であれ、活動であれ、本気で向き合っていると「あっ、ちょっと周りの人と考えがずれてきたな」と思うことってありませんか?深めれば深めるほど、思わぬ考えに至ったり、それが振る舞いに現れたり…

ADVENT CALENDAR 2019のテーマは「日常の視点が思わずゆらぐ学習・活動秘話」です。普段は当たり前のようにこなしている仕事やそれに必要な考えやノウハウも、そのことにとりわけ関わりのない人にとっては「思いもかけない」ことでしょう。今回、一年を振り返る間際の12月、面白い・意義深い考え方や知識、あるいは実際に日常の活動を行う中で見出している応用可能性の高い学びや経験を「ことば」にしてみませんか?

きっと本気で向き合ったときに滲み出てしまう周囲への「違和感」は、誰かにとってはダイヤの原石のような思わぬもので、味わい深いもののはずです。そんな「日常の視点が思わずゆらぐ学習・活動秘話」をお待ちしています!

Writer

ロシア文学と日本文学をこよなく愛する精神的貴族な人。