「学問に真剣に取り組むことが、就活にも役立つ」
この記事を読まれている人の中には、この考えに違和感を覚える方も少なくないでしょう。現に、巷では就活対策と称した、大学の教科書とは明らかに違うコーナーに置かれた参考書や、GD(グループディスカッション)・面接などの対策イベントが溢れかえっています。世の「就活ガチ勢」の中には、「最近学校週一のゼミしか行ってな~い」という人がたくさん。こんな状況の中で、就活を前にして大学の勉強なんてやっていられるか。それが世間の大多数の感覚でしょう。
私も実際そうでした。3年の夏まであまり就活に時間が割けていなかったので、当時はビビっていました。しかしとあるGD対策イベントに行って、ガチ勢にメタメタにやられるのかと思ったら意外とそうでもなく、むしろ議論は自分が仕切っていました。自分の持っていた何かが通用したのです。
そしてある時、この「何か」の正体が分かりました。それは就活と、自分の専攻(言語学)との間で共通する「仮説演繹法」という議論の枠組みです。ビジネスの世界では「仮説思考」と言われることが多いです。本日はこの共通項を手がかりに、大学の勉強と就活の共存、もっと言えば相乗効果を生み出す可能性を探ってみましょう。
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就活で目にした「仮説思考」
まずは私が就活で目にした「仮説思考」について、軽くご紹介します。
「仮説思考とは、限られた情報から最も可能性の高い結論を「仮の結論=仮説」として設定し、その仮説に基づいて仮説の実行、検証、修正を行っていく思考法です。
これが大まかな定義です。
次に、ビジネススキルやマインドセットについて解説している“workers-strategy”というサイトに載っている例を見て、実際に考えてみましょう。このサイトでは、「空・雨・傘」というフレームワークを提示した上で、以下のように仮説思考の進め方を説明しています。
- 空→空を見て、事実を認識する。
- 例: 空はおおむね晴れているが西の空に雨雲がある。風は東に吹いている
- 雨→空の状況(=事実)を解釈し、仮説を立てる。
- 例: もうすぐここも雨が降るかもしれない
- 傘→立てた仮説をもとに、すべきことを判断・実行する。
- 例: 傘を持って出かけるのがよさそうだ
この「空・雨・傘」の思考パターンで
- 観察
- 仮説
- 実証
を繰り返す。
これが、仮説思考の大まかな流れです。
この思考法は、就活段階では、選考の序盤で行われるGDや、インターンシップにおける新規事業立案など、重要な局面で必須のスキルです。
大学で学んだ「仮説演繹法」
一方、私が大学の学問、特に専攻の言語学で学んだ「仮説演繹法」とは何でしょうか。まずは具体例を見てみましょう。
あなたは未開の奥地で、現地の言語「英語」の文法を探っている言語学者です。色々な文を聞いていると、否定の時に“I don’t play the guitar.” “They don’t eat curry.”などと、動詞の前に何やら“don’t”という言葉が聞こえます。そこであなたは「否定を表すとき、動詞の前に“don’t”をつける」という仮説を立てます。そこで、この仮説を検証すべく、あなたは現地人に、先ほどのギターを弾かない青年を指さして、こう言ってみます。“He don’t play the guitar.”そうすると、“NO, he DOESN’T play the guitar!”と言われてしまいました。そしてあなたは先ほど立てた仮説を修正します。「否定を表すとき、動詞の前にはdon’tかdoesn’tをつける」と。
このように、
- 限られた情報の観察から
- それらしい仮説を立て、
- それを別の事例で検証し、反例にぶつかったらそれを修正する。
- そして物事の一般化・現象のよりよい説明を試みる。
これが「仮説演繹法」です。さらにその後、あなたは“didn’t”という反例にぶつかったり、“I doesn’t”などと言わないことを知ったりして、先ほどの仮説をどんどん改め、否定表現に対しより広い説明をつけていくことでしょう。
ここまで見てみると、就活やビジネスで使われる「仮説思考」と、物理学や言語学など、自然科学一般で使われる「仮説演繹法」、どちらも(その目的は違えど)基本的なやり方は同じではありませんか。こう考えると、最初に私が書いた「学問に真剣に取り組むことが、就活にも役立つ」という文言の意味が見えてくるかと思います。
なぜ就活と学問が繋がらないのか・大学と学生(就活生)の現状分析
ここまでで見たように、学問で培われるものは、就活にも活きてくるはずです。にもかかわらず、これは世間の常識にはなっておらず、大学と就活は切り離されたままです。その原因は何なのでしょうか。一端は大学教育の内容、もう一端は学生の態度にあるように思います。
前者から見てみましょう。
結論から言うと、「仮説演繹法」のプロセスは研究において超大事です。なぜなら、データを集めても、どこかの段階で一般化をしないとキリがないし、そのデータは役に立たないからです。しかし、特に多くの理系学部でこれは、無意識のうちに漠然と拠り所にする考え方としかなっておらず、明確に意識されることは少ないのが現状です。
先ほど挙げた英語の例のように、事象の観察というのは、全て人間が立てた仮説のもとに成り立っています。このやり方を大学の勉強、いわば研究の前段階で可視化しておくことは、かなり重要だと思うのです。
以上より、私は、大学のどこかでみんなが仮説演繹法を学ぶ場があるべき/あるほうが望ましいと考えています。また、このような「学問のための大学教育」を徹底することで、「役に立つ大学」という、大学への社会的要請にこたえることにもなるのではないでしょうか。
次に学生の態度についてです。
2年までで授業をサボりまくって、3年の6月(インターン解禁時期)になっていきなり家を出て、相変わらず大学には行かずイベントや選考に参加し「就活ガチ勢」となる学生は、現実かなり多いです。しかし彼らは、そこでいきなり出てくる難解なフレームワークの理解やその運用に苦戦します。
もし納得のいく就活をしてビジネスシーンで活躍したいと思うなら、学生のうちに、授業に出て、学問に真剣に取り組み、思考のトレーニングをしておくことが、結果的によい結果を生む手段になるのではないでしょうか。
まとめ
ここまで、私が発見した学問と就活の共通項「仮説思考」を軸に、両者の類似性を探ってきました。そしてそれは実際、方法論として同じものでした。要するに、「学問に真剣に取り組むことが、就活にも役立つ」はずなのです。しかし、そこには大学側・学生側双方の問題が立ちはだかります。
大学・学生のどちらかだけを改善しても効果は薄いと考えられます。もし大学側が「仮説演繹法概論」を開講しても、学生がその授業に出なければ意味がありません。また、もし学生側だけが意識改革して授業にバリバリ出ても、現状の「無意識に仮説演繹法」方式では、せっかくの良いやり方が身に付かず、よくわからないまま終わってしまいます。したがって、ここに関しては両面の改革が必要といえます。
究極的にいえば、大学の教育の仕組みを良くして、学生がそれに真剣に取り組めば、就活力はおろか、社会全体の「地頭」が底上げされるのも、そう遠くはないのではないでしょうか。もしそうなれば、社会がよりよくなるとともに、大学も社会にとってより重要な存在になれるのではないかと思います。
以上、私が大学で言語学を学びつつ、「就活」という学問に取り組んだ結果見つかった、「日常の視点が思わずゆらぐ学習・活動秘話」でした。もしここに現役就活生の方、またはもうすぐ就活かも…と思っている方がいらっしゃったら、自信をもって今の勉強・研究を頑張りましょう。きっとそれが勝負所で味方してくれると思います!