社会を想う。人を想う。

もうすぐクリスマスですね。窓の外では色とりどりのイルミネーションが街を彩り、光はキラキラと冷たい空気を暖かなものにしてくれる。クリスマスソングが流れている。この時期の人々の心を温めるような空気感が私は好きです。

こんにちは。さないです。このADVENT CALENDARのテーマはゆらぎと聞いた時に「ゆらいだ経験なぞない!」と一掃したものの、この道に進むにあたってそこに迷いはなかったか。他の選択肢は考えなかったか。ゆらぎがないとしたらそれはなぜか、考えてみました。

みなさんの参考になるかはわかりませんが、「こんな博士進学ってありなんだw」「この研究分野、わくわくする!」、という発見を持つお手伝いや、読んでなんだか元気が出てくださる方がいたらとても嬉しいです。

讃井知

大学時代につくば市の観光大使やFintech系ITベンチャーの広報を務めた経験から、地域と科学の振興に関係する活動を行なう。つくば院生ネットワーク(TGN)代表。行動科学(心理学)が専門で、自治体や企業とも連携しながら人々の“助けあい精神”の醸成を密かに仕掛けています。特に元受刑者、夫婦間、高齢者の問題が専門。趣味は、車、猫、食物、筋トレ。

ADVENT CALENDAR 2019―13日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!

私の専門は行動科学です。「行動経済学」とか、「ナッジ」という言葉を聞いたことがある人が多いかもしれません。2017年にノーベル経済学賞を受賞されたリチャード・セイラ―さんが有名ですね。ざっくりいうと、人間の認知や感情的な心理バイアス(傾向)をうまく利用して、行動を説明したり、さらには望ましい行動を促進したりする分野です。

私は、特に心理学の知識を使って「“助ける”行動のメカニズムを明らかにする」ことをやっています。その上で、助け合いを促進するにはどうしたらいいか。例えばどういう広報物をつくったらいいかについても考えています。

声にならない声を集める。伝える。

心理学は人の目にはみえない”心”を、目に見える形に切り出す学問です。

よく「人の気持ちがわかるの?」と聞かれることが多いですが、わかりません(笑)

分からないけど、わからないなりに自分が認知できる範囲で、「きっとこういうことなんじゃないか」という事を、理論研究から導きだしたり、統計的な手法をつかって「こういう風に思う人が多い」という法則性を見出したりしています。

私は学部生の時にシンクタンクに所属し、社会問題の解決のために政策を考えて官僚に提言をするという活動をしていました。

その活動の中、実際に政策がつくられるプロセスを見ると沢山の疑問がわきます。

  • なぜその政策課題に取り組むのか(他にもっと解決すべき社会問題はないのか)
  • 立案の過程で論理の飛躍があるんじゃないか(他にもいい方法がありそう)
  • ちゃんと政策評価できているのか(データのとり方おかしくない?)

…などなど。

若気の至りで、なんか違うと思うと、問い詰めずにいられず、毎日のように霞が関に通いつめ駄々をこねました。その中でも特に違和感を持ったのは、果たして政策立案現場が国民のニーズ、つまり「声」をとらえられているのかということでした。

なぜこんなに国民の声にこだわったか。それは私が “政策の介入対象”となる方々とよくコミュニケーションをとっていたことに起因します。

当時私は貧困問題や、更生支援(刑務所などの出所者に対する支援)の問題解決に取り組んでいたのですが、実際に貧困の子供、ホームレス、出所者等と話し合う中で、施策がうまく届かない例を沢山目撃しました。

また、逆にこうした方達が「もっとこうして欲しい」という声を持っていたとしても、それをエリート官僚に伝える機会も術もなかなかないこともわかりました。政策立案側が悪いわけでも、“介入対象”が悪いわけでもありません。官僚は国民のためを思い、それこそ必死に倒れてしまうほど働いています。

難しいのは両者を繋ぐコミュニケーションです。

そこで、その両方によく出入りをしていた私は「あ、そうだ!私が繋げばいいんだ」と、単純に考えました。行政が動くためには「論理」が必要です。私が、声にならない声を「データ」として可視化する。そうすればきっと、論理が作れて、ちゃんと効果がでる政策がつくれるはず!声をデータ化する作業(≒心理学)は政策の立案と現場をつなぐ言語だと思いました。

自分ができること。誰かを想う事。

研究をするには、ある学問分野を名乗ることになります。それが私は行動科学であり特に、心理学です。

学問分野は、例えば、研究者にとって出身地のようなものかなと思います。そしてそこにお家を立てたりお店屋さんをしたり、野菜を植えたりする作業をして生産活動(≒論文を書く)をするわけですが、どういうお店を立てるか、何の野菜を植えるか、それがテーマ選びです。

そしてテーマ選びがその人のオリジナリティ≒価値になります。ですので、自分は何をテーマとしたらよいのか悩み、その過程で試行錯誤や「ゆらぎ」がある人も多いのかなと思います。

しかし、冒頭にお話ししたように私はこれまでにあまり「ゆらぎ」や「迷い」がありません。

私がこれまでに取り組んでいるテーマは、

  1. 更生支援
  2. 高齢者同士の共助
  3. 東日本大震災の仮設住宅のコミュニティ再生
  4. 他機関連携による福祉政策の改善
  5. 特殊詐欺予防

です。

こうしたものに対して、自治体や地域の方と一緒にこれらの行動を促すためにどうしたらいいか考え、広報戦略に活かしたりしています。

そしてこれらのテーマと出会ったきっかけは、「大事な仲間が、実は一般的に言う“ワル”だった」「東北に住む祖父母が大好き。なので、震災、高齢者の問題、福祉政策の問題が身近」「彼氏が、ごく簡単なフィッシング詐欺にかかった」などの実体験です。

それだけを聞くととても浅い思考プロセスで研究上の意思決定をしているように感じるかもしれませんね。でも、そういうわけでは決してありません。

シンプルに、自分がやりたいことをやっています。

なぜなら、私にとっての研究とは、「大切な人やもののために、自分の力の限り最善の処方箋を書く」ということだからです。なので、

  • 誰かが何かに困っている
  • 助けてあげたいと思う
  • 自分が解決してあげたい、してあげられそうなアイディアが思いつく

の3条件が揃うと、私は研究をしたくなります。

問題の解決にはどういう行動が必要になりそうか。その行動が発生するためには、どういう行動プロセスが必要か。その行動プロセスが喚起されるためには、どのような心理的なメカニズムが考えられるか、その心理要因を促進するためには、どのようなきっかけをつくったらよいのか…。と分析とシミュレーションを繰り返し、望ましい行動の発生条件を考えていきます。

また、誰かが何かに困るという事は、ほとんど全て人間社会の中で起こっている事なので、人の心理や行動の改善に必ず問題解決の糸口が存在すると信じています。

なので、私は何かを大切に想う能力が続く限り、研究を続けることができそうです。

ゆらぎ × 可能性・期待

最後に、お題として与えられた「ゆらぎ」の存在について、私なりに考えてみたいです。

なぜ、自分にはゆらぎがないのか。もしくは、「ゆらぎ」を認識していないのか。

誤解を恐れず、大げさにいうと、

i) 研究(≒生きること)に対して、目的が明確
ii) 新しい可能性をそのまま受け入れている≒自分にも他人にも期待をしていないからじゃないかと思っています。

i) についてはここまで読んでくださった方はなんとなくわかっていただけると思います。
ii) について少し掘り下げてみます。

「自分がこうだと信じてきたものが違った、当たり前に受け入れてきたものが、実は違った。」それが「ゆらぎ」だとするならば、生まれた時から、すべてのことを疑い(皆さんのこと疑ってる!ってわけじゃないですよ!(笑) 専門用語でいう批判的思考というものです!)、事実をきっと人よりのんびり少しずつ咀嚼してきた私にとっては、その“信じてきたもの” “受け入れてきたもの“があまりありません

かなり普遍的だと考えられる事実しか受け入れないので、それを裏切られた経験はないし、新しい知見は普遍的な事実からみたら、事実を理解するためのTipsでしかない。また、自分の意思決定もそうした脆い“事実”の上に成り立っていることを、無意識の上に当たり前に捉えているので、「考えが変わる」ということもなく、新しい情報を得たらその情報の中で意思決定を「アップデート」するのは当然だという考え方です。

もしくはこのTipsやアップデートがゆらぎの正体であるなら、私はたえることなく、ゆらいでいるようです。ずっとゆらゆら、ゆらいでいたら、ゆらぎに気が付けないですものね。

ADVENT CALENDARに寄せて

研究者としてはまだまだ未熟だけど、人生を生きてきた年数は27年とそれなりに時は流れている。これまでに学んできたこと、心を動かされた瞬間もそれなりにあり、時には強い印象を残すものもあったし、一方、普段は全く思い出しもしないことも多々ある。

それぞれを点と例えると、ある瞬間に全くつながりのない様に思えたこともぱっと点灯し繋がった瞬間に煌めくイルミネーションの様に1つの形に成る。それが発想と言うことかもしれない。

そして、そんな個人がたくさん集まる。 例えば今回、ADVENT CALENDARのために、こうして20人以上もが寄り集まって記事を書く。それぞれ目的は違うかもしれないけど、これも、誰かのための、何かのためのものだと思います。そしてその背景には温かい気持ちがどこかに絶対あるはず。

伝えたいことがあって、伝えたい相手がいる。伝えたいような出来事が偶然起きたり、それを教えてくれた人がいる。いい世の中になったらいいなとか思ってみたり、未来に希望を持っていたりする。

そうしたものが裏切られると、時に、悲しい感情が発生することもあるけど、でもそれも、期待や希望がもともとあったから。

世の中にあるすべての研究・知見・いやそれ以前に言葉は、そういう想いとか気持ちとかが繋がって、形になって表れている。そんな風に私は思っています。ADVENT CALENDARの完成、楽しみです。

Writer

行動科学(心理学)が専門で、警察機関や自治体等の統制機関と市民を繋ぐコミュニケーション(情報発信)を検討している。茨城大学では情報デザインに関する講義を担当。大学時代につくば市の観光大使やFintech系ITベンチャーの広報を務めた経験から、地域と科学の振興に関係する現場活動も行なっている。