どもども!Share Study代表のとしちるです。今回、ADVENT CALENDARの記事を書くにあたり、「あれも話したい」「これも話したい」と思い浮かんでしまって、非常に悩みました。「ズバッと意義があることを書きたいなー」とか思うんですけど、自分のメディアなんだから「多少、周りくどくても好きなこと書けばいいじゃん!」とも思うわけです。
というわけで、ADVENT CALENDAR初回の導入記事として、昨今のデジタルメディア・コミュニケーションの状況について少し長い導入を書きます。物事には「裏表」がありますので、前半はネガティブな社会的状況について概観しつつ、後半はデジタルメディアのポジティブな側面に光を当てます。お手柔らかにどうぞよろしくお願いします。
ADVENT CALENDAR 2019―1日の投稿

12月1日から24日までクリスマスを待つまでに1日に1つカレンダーを空けるという風習に習って、記事を投稿するイベント、それがADVENT CALENDAR!
情動的モードのデジタルコミュニケーション
Share Studyを立ち上げ、ADVENT CALENDARなる企画を考え、これも今年で二年目です。僕が勝手にメディアを立ち上げたように、今や誰しもが気軽に自分のメディアを持つことができますよね(続けるのが大変なんですが)。特にその敷居を下げたのは「Twitter」や「Facebook」をはじめとしたグローバルなソーシャルメディアの誕生だったと言ってもいいでしょう。多くの人が「いつでもどこでも」情報を発信することができるようになりました。
これは実のところ、かなり革命的なことです。だって、これまで情報を広く行き渡らせることができたのは一部の「権力者(広義に影響力を持つ人、組織)」たちだったんですから。なので、インターネットが登場したころ、新しい「公共」の場が作れることに期待が高まっていたのです。しかし、そうした期待は脆く崩れ去ったという認識が2000年代にはすでにありました。「多くの人」がコミュニケーションをできるようになるからといって、そんな簡単に社会や文化は良くなりません。当然、ソーシャルメディアの登場もそうした経緯を見聞きしてきた論者たちから期待や不安が上がっていました。
ソーシャルメディアへの参入と情報の流通を加速化させたのはスマートフォンでしょう。そんなスマートフォンの火付け役となったiPhone(正確にはiPhone 3Gが2008年に発売)が世に登場してから10年以上経った今、どうでしょうか。正直、全くデジタルコミュニケーション状況(特に昨今の日本の社会文化的状況を鑑みて)は良くなっていない、むしろ悪化していることも多いのではないかと僕は思ってしまっています。例えば、2019年夏に開催された芸術祭「愛知トリエンナーレ」のテーマは「情の時代」でしたが、まさにその「情」が爆発した象徴的出来事となりました。その関連ニュースを見聞きしている人はさまざまな意味で「情」が入り混じった主張や議論が取り止めもなくデジタル空間上に拡散されていく様を見聞きしていたと思います。
Share Studyは「情」として大事にすべきものと(例えば、それぞれの人が持つ趣味趣向やそれに応じた人生の選択やその語り)、そんな「情」から一歩引いて物事を考えたり行動したりすることの意義をデジタル空間上で媒介するために立ち上げたWebメディアでした。単に「情」が発散していくデジタルコミュニケーション空間にならないことを目指して立ち上げたものですから、正直言って、全然明るい気持ちになれずにこの一年を過ごしてきました12019年9月に社会言語科学会のスチューデント・ワークショップに「ディスコースから捉える『自己の位置づけ』-4つのフィールドから-」というテーマのもと、「Twitterを媒介に「感染」するイデオロギー 「過労死は自己責任」ディスコースを中心に」という口頭発表を行いました。ここでは、「情動的コミュニケーション」を「「驚き(例:新しいものとの出会いや発見/秩序からの逸脱)」により身体への原初的反応を喚起するコミュニケーション」とし、2018年6月に起きたTwitter上の議論「過労死は自己責任」を分析(関連記事:社会言語科学会、第1回スチューデント・ワークショップでの発表内容と振り返り| Discourse Guides)しています。こうしたトピックを取り上げているのは、上述したメディア環境の「情動性」に対する違和感を分析する枠組みを今後設けていきたいと考えたからです。。
暗い話ばかりをしたいわけではないです。あまりにバカ真面目に社会だとか文化だとか政治だとかに向き合っていても己の身を滅ぼすとも思うからです。ですから、これからデジタルメディアの「良い点」について改めてまとめます。その上で、良い点は良い点として活かしていきつつ、悪い点は悪い点として捉えて、時にその悪い点と対峙していけることばを積み重ねたいと思います。
デジタルメディアの利点:クロスメディア化と簡易な経験値の積み重ね
デジタルメディアの際立った特徴をあげるなら、それは「クロスメディア化」でしょう。例えば、紙のメディアは作成するのに多大なコストがかかり(印刷すれば基本的に再編集不可なため)、一つの紙のメディアとして完結しがちです(例:新聞)。一方、このADVENT CALENDARのようにデジタルメディアでは気軽にコンテンツを作成することができます。アナログメディアに比べれば、さまざまな立場の人や組織が関わりを持ちやすいのがデジタルメディアの特徴です。
この「クロスメディア化」と同時にデジタルメディアにおいてメリットとなるのが「簡易的な経験を積み重ねしやすい」ことです。 例えば、このADVENT CALENDARもその特徴を活かす一つの試みです。Share Studyは「人から始まる学問の見える化」を初期理念として立ち上げたWebメディアでした。あくまで「学問」であることにこだわるからには、「アカデミックなコミュニケーション(ゼミでの議論、研究室における実験、論文執筆、査読 etc.)」を経験できるような仕組みを設けていきたいと考えたんです。そのため、「Share Study」では単に情報を発信して受け取ってもらうのではなく、送り手となる経験をアカデミックなものに紐づけるようにすることを考え開設しました。その一つの形がこのADVENT CALENDARです。
ADVENT CALENDAR 2019では、(みっちりとサポートできるわけではないけども)寄稿者に記事執筆Tipsを共有しています。例えば、論文では既存の知識をただ並べるのではなく、当然、新規的な発見を明晰に論じる必要があります。そのために、先行研究を整理し、自身の論文のどの点がどのような先行研究とも異なる新規性を持つのかを丁寧に論述するためには、アウトライン(目次)をしっかりと作成することが必要です。実はこうした作業は、Web記事でも同じです。分かりやすいWeb記事は、「伝えたい内容」が絞られており、その「読者」を想定し、「見出し&本文」を駆使して構造的に(目次を作って)文章が記述されています。
さらに、デジタル空間は(今は私的空間としての要素が強まってきているものの)公的空間、言い換えれば「公の場」です。つまり、公の場に自身の考えをことばにしていく場です。否が応でも、外に対する目を養う必要性に駆られます。もちろん、いつもいつも表立つ必要は必ずしもありませんが、こうした特性を活かして簡易的にも経験値を積めることはデジタルメディアならではのメリットと言えるでしょう。
おわりに
以上、昨今の情動的モードのデジタル環境の背景とデジタルメディアならではのメリットとして「クロスメディア化」と「簡易的経験値の取得」についてまとめました。その実例として、このShare StudyとADVENT CALENDARについて紹介しましたが、正直言って、全然上手くいっていません。Share Studyでさまざまな人との関わりを「オフライン」でも持つための取り組みはことごとく失敗しています。
まさに「デジタルメディアでは経験が積めるぞ」と説明したように、その経験を経て得た教訓がたくさんあります。しかし、まだ上手くその経験値を言語化しきれていません。そこで、もう一つ、アカデミックなものの特徴として、「アーカイブ」していくというメリットを挙げたいんです。このアカデミックなもののメリットを引き継ぎ、昨今の情動的モードのデジタル環境を部分的に乗り越える上で役立つであろう「アカデミックな公共性とゼミ(っぽさ)」を25日の最終記事にて書く予定です。
これは2018年のADVENT CALENDARで執筆した、「視養」の議論とも接続する話です。 どうぞお楽しみに!
Footnotes
⇡1 | 2019年9月に社会言語科学会のスチューデント・ワークショップに「ディスコースから捉える『自己の位置づけ』-4つのフィールドから-」というテーマのもと、「Twitterを媒介に「感染」するイデオロギー 「過労死は自己責任」ディスコースを中心に」という口頭発表を行いました。ここでは、「情動的コミュニケーション」を「「驚き(例:新しいものとの出会いや発見/秩序からの逸脱)」により身体への原初的反応を喚起するコミュニケーション」とし、2018年6月に起きたTwitter上の議論「過労死は自己責任」を分析(関連記事:社会言語科学会、第1回スチューデント・ワークショップでの発表内容と振り返り| Discourse Guides)しています。こうしたトピックを取り上げているのは、上述したメディア環境の「情動性」に対する違和感を分析する枠組みを今後設けていきたいと考えたからです。 |
---|